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ダイヤモンド・オンライン連載企画/悪徳な霊感商法に要注意!

ダイヤモンド・オンライン連載企画/悪徳な霊感商法に要注意!

親や兄弟であっても、なかなか相談できない悩み事はだれにでも一つや二つはあるだろう。そんな誰もが持つ心の隙間に入り込み、カネをむしり取っていくのが、悪質な霊感商法だ。物事の判断ができる普通の人ほど、一度嵌るとなかなか抜け出せないことが多いという。騙されたと気付いて裁判を起こしても、霊能師と呼ばれる人間の素性を調べるにも一苦労ということもあるようだ。実際に霊感商法に嵌りかけた40代男性の事例を基に、注意すべきポイントを考える。

●先祖の死も胸の痛みも「お稲荷様のたたり」!?

 「あなたの胸の苦しみは、先祖がお稲荷様を粗末に扱ったのが原因です」

 安藤さん(仮名・40代男性)は、知人に「良い霊能師がいる」と紹介されて「霊能鑑定」を受け、そのように言われ、ショックを受けた。

 さらに、霊能師は、ショック状態の安藤さんに、こう続けた。

 「お稲荷様のたたりで先祖が次々と早死にした」

 「先祖が良い死に方をしていないため、先日亡くなったあなたの親御さんは先祖に引きずり込まれた」

 「あなたにも先祖による引っ張りがあり、そのために胸の苦しみなどの症状が出ている」

 安藤さんは、長年、胸の苦しみに悩まされており、医者に診てもらってもなかなか原因が特定できないことから、もしかしたら霊的な問題が原因ではないかと思うようになっていた。知人からの紹介は、まさに渡りに船だったわけだ。

 

●霊能鑑定は1回3万円。儀式にはなんと800万円!

 そんな状態で霊能師に会いに行き、先祖がお稲荷様を粗末に扱ったのが胸の苦しみの原因だと自信ありげに言われたものだから、安藤さんの心は一気にその霊能師に傾いてしまった。

 安藤さんは霊能師に言われるがまま、先祖の家系図や戒名を調べて霊能師に報告し、その後も何度も霊能師のもとを訪れた。そしてその度に、1回3万円の「霊能鑑定」を受けた。

 何度か通ううちに、霊能師は「安藤家の因縁が見えた」と言って、なにやら怪しげな図を書き、それを示しながら「稲荷神社でキツネに謝る儀式」や「先祖のお墓で先祖を供養する儀式」などの儀式が必要で、そうした儀式をしないと胸の苦しみは良くならない、と説明した。

 胸の苦しみから逃れたい一心で、霊能師の言うことを鵜呑みにしてしまう心理状態に陥っていた安藤さんは、お稲荷様のたたりから逃れるための「儀式」を霊能師に行ってもらうことを承諾した。その「儀式」の費用は、合計800万円と説明された。

 支払いの記録や口座情報を知らせないためか、霊能師は「神様に供えるものだから振込みはできません」などと言い、安藤さんは現金で800万円を支払った……。

●不安、恐怖心をあおった上での高額の儀式料等の要求は違法

 しかし、安藤さんは霊能師が行なった「儀式」を実際に見て、我に帰った。霊能師はお墓の前で30分くらいお経を上げただけで、「御霊をお墓に移した」「良くなったでしょ」などと言っていた。

 「こんなことをして、胸の苦しみは本当に直るのだろうか」

 インチキではないかと疑問を持った。ようやく、霊能師からの呪縛が解けた瞬間だった。

 我に帰った安藤さんは、霊能師に800万円の返還を求めて交渉したが、らちがあかなかった。そこで、弁護士に相談して800万円の返還等を求め、裁判を起こすことにした。

 もちろん「信教の自由」は憲法上で保障されており、霊的・超自然的な効果を証明できないとしても、祈祷や宗教的儀式の依頼を受け、信者からお金を取ることが直ちに違法になるわけではない。

 しかし、祈祷や宗教的儀式の名目であっても、相手方の窮迫に乗じ、ことさらその不安、恐怖心をあおるなど社会的に不相当な方法でなされ、その結果、相手方の正常な判断が妨げられた状態で、著しく過大なお金を支出させたような場合には、民事上の不法行為(民法709条)が成立し、損害賠償義務が発生するとされている。

 つまり、相手の不安や悩みにつけ込み、それをあおる形で多額のお金を出させるのは、いかに宗教的儀式の形式を取っていても、違法になるということだ。

 こういった事件については既に複数の裁判例が出ており、前記のような理由により、不法行為を認め、被害者を救済する判断がなされている(神戸地裁平成7年7月25日判決、東京地裁平成23年10月27日判決、名古屋地裁平成24年4月13日判決等)。

 安藤さんのケースの場合でも、胸の苦しみが良くならないという悩みにつけ込み、「お稲荷さまのたたりが原因」「たたりで先祖は早死にした」「儀式をしないとあなたも先祖に引きずり込まれる」と不安、恐怖心をあおって、正常な判断ができない状態に追い込み、800万円もの高額の儀式料を支出させた。この霊能師の行為は違法となり、損害賠償として儀式料相当額やその他の損害を支払う義務が生じるといえよう。

 とはいえ、実際に裁判を行うには費用も時間もかかるし、霊能師とのやり取りは密室でのやり取りであることから、どのような説明があったのかを裁判で立証するのには一定の困難が伴う。そもそも霊能師の戸籍上の氏名や住所を特定するのにも苦労することがある。

 安藤さんのケースでは、霊能師の氏名や住所を特定でき、現在訴訟中であるが、霊能師側は「お稲荷様のたたりというのは自分が言ったのではなく、安藤さんが他の霊能師に見てもらったこととして説明してきた。儀式も通常はあまりやらないが、どうしてもと頼まれたので仕方なくやった」などと主張して争っている。

●霊的な力に頼る気持ちはだれでも持つ自然なもの

 他人になかなか相談できない悩み、解決の難しい悩み・苦しみを抱えている人は多い。そんなとき、超自然的な力や霊的な力を信じてそれにすがりたいという気持ちは、ある意味で自然なものだろう。

 安藤さんは、普段は第一線で活躍する国家公務員である。社会人経験も豊富で、理性的に物事の判断ができる人だ。決して怪しい商法に騙されるような、スキのある人には見えない。それでも、長年の悩みの部分を、霊能師に見事に突かれ、騙されてしまった。

 宗教や占い師、霊能師などに関わる場合、高額のお金がからむとなるとよくよく慎重に、疑ってかかるくらいの姿勢でないと、誰でも簡単にだまされてしまうリスクが高いのではないだろうか。

 宗教や占い師、霊能師の全てがインチキだなどというつもりは全くないが、高額のお金がからむとなると、「お金が目的なのでは」とひとまず疑った方が良い。真面目に生きてきた人ほど、いったん信じ込むと、なかなかそこから抜け出すのが難しいようにも思うが、真面目に一生懸命稼いできたお金を、いかがわしい霊能師に貢いでしまうのでは大変もったいない。

●相談相手はよく選ぶ。カネが絡むと要注意

 昔から、人の不安や悩みにつけ込み、霊的・超自然的な力を信じさせて多額のお金を引き出すという商法はなくなることがない。ストレスが多く、個人と個人のつながりが薄く広くなっている現代社会では、ますますそのような商法が幅を利かせているように感じる。

 昨年も、芸能人が「占い師」と親しくなり、同居までして、マインドコントロールされていたのではないかと報道された例があった。

 また、大学生がサークル活動を装ったカルト宗教に勧誘され、嵌まってしまい、集団生活に入って家族とも連絡が取れなくなる、といった問題も昔からあるが、今でも日常的に起きている。

 筆者が数年前に関わった事案では、比較的若年者を狙い「サロン」に呼び出し、対人関係などの悩みを聞き出して、「不思議な力の出る宝石」などと称して、客観的には大した価値のない宝石を高額で売りつけ、ローンを組ませるという商法があった。筆者らは被害者を集めて集団訴訟を起こし、全面勝訴したことがあるが、その後も同様の商法は続いているようである。

 不安や悩みを相談する相手は良く選ぶこと、高額のお金がからむ話であれば、ひとまず疑ってかかることが大事ではないだろうか。 

*本記事で紹介した事例は、筆者が扱っている実際の例を元にしていますが、事実関係については一部省略等しており、正確なものではありません。

プロフィール

秋山 直人
秋山 直人(あきやま なおと)弁護士 秋山法律事務所
東京大学法学部卒業。2001年に弁護士登録。所属事務所は四谷にあり、不動産関連トラブルを中心に業務を行っている。

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