残業代請求を社長が無視するーー。こんな相談が弁護士ドットコムに寄せられました。
相談者の女性は、残業代請求の訴訟を起こして、勝訴したそうです。しかし、会社の代表取締役(一般的な呼称として、以下、社長と呼ぶことにします)は無視を続けています。
女性は「会社テナントの賃貸料金などの収入もあり、支払えない訳はありません」と話し、賃料を支払っている知人に直接かけあうか考えているそう。
相手が一向に支払うそぶりを見せない場合、泣き寝入りするしかないのでしょうか。山田智明弁護士に聞きました。
●財産の強制執行の申立てを行う
社長は判決が出ても、支払いを無視しているそうです。
「今回の相談のように、会社が判決に従わず任意の履行を拒否している場合は、債権者としては、会社が保有している財産(債権、不動産、動産)の強制執行の申立てを行い、会社の財産を金銭に換えるなどして、残業代の支払いにあてて、回収を図ることが考えられます」
会社には、賃貸収入などがあるようです。
「今回の事例は、賃料収入があり賃借人も判明しているとのことです。
その場合、会社が物件の借主に対して持っている『賃料債権の差押命令』の申立てをします。そして、裁判所の差押命令が債務者である会社に送達されてから1週間を経過したときは、債務者の債務者に当たる『第三債務者』である物件の借主から直接取り立てることが法律上可能になります。
既に勝訴判決を経ている場合、差押命令は形式的要件の審査のみで発令されます。
賃料収入があるとのことなので、所有している不動産を特定し競売にかける『不動産競売申立て』も可能です。ですが、不動産調査などのために、裁判所に高額な予納金を納付する必要があります。
そのため、債権が存在し、今回の事例のように差押えが可能な程度に借主などを特定しているのであれば、債権の差押えを優先するのが通常です」
●預金債権の差押えも
他の回収方法はありますか。
「債権の差押えの中で最も典型的なのが預金債権の差押えです。
預金債権の差押えを申し立てる場合、債権の特定として口座番号の特定までは必要とされていませんが、第三債務者である金融機関の支店名を特定することが必要とされています。ゆうちょ銀行の場合は、比較的広域の取扱の貯金事務センター単位まで特定すれば可能とされています。
このほか、会社に在庫商品がある場合や差押禁止となる66万円を超える現金が保管されている場合には動産執行の申立てをすることも考えられます」
賃料を支払っているという知人に直接払ってもらう方法は、ダメでしょうか。
「債務者の会社が無資力の場合は直接取り立てることが法律上可能ですが(民法423条の債権者代位権)、会社が無資力ではない場合には、債権差押命令を経ずに直接取り立てる法律上の権限はありませんので、注意が必要です」