健康診断の結果。「自分はすべてにおいて完璧である」というごく一部のひとを除いて、大多数が他人には見られたくないものでしょう。その扱い方をめぐって、弁護士ドットコムに対して相談が寄せられました。
相談者は、血圧が高く、糖尿病を患っているといいます。そのことを他人に知られたくないと思っていて治療を頑張っています。ところが、担当者の机の上に、相談者の健康診断の結果が無造作に置きっぱなしにされていたそうです。
しかもその机は、他の従業員や出入りする外の業者の目に触れる場所にあり、後日になって「糖尿なんだってね」などと特段親しくない同僚から指摘され気分を害したといいます。相談者は「会社に行くのもイヤ」で、何か法的に取れる手段はないかと悩んでいる様子。実際、何かできることはあるのか山田智明弁護士に聞きました。
●会社が健康診断結果を把握することは拒めない
ーーそもそも、従業員の健康診断結果を会社が把握できるものなのでしょうか。従業員が拒むことはできるのでしょうか
「事業者(会社)は、労働安全衛生法上、従業員に対して、雇入れ時及び定期(年1回以上)の健康診断を実施し、健康診断の結果を記録しておかなければならないとされています。
また、健康診断の結果を把握したうえで異常の所見があると診断された従業員に対しては、医師等からの意見を勘案して健康保持のために適切な措置(就業場所の変更、労働時間の短縮等)を講じることとされています。
それらに違反した場合は、刑罰規定があるほか、事業者は安全配慮義務(健康配慮義務)違反として民事上の損害賠償責任を負う可能性もあります。そのため、事業者が従業員の健康診断の結果を把握することが必須であり、従業員がこれを拒むことはできません」
●会社は情報共有の範囲を必要最小限にするべき
ーーとはいえ、今回のような情報を知る必要がない人たちまで閲覧可能な状態にした会社側の対応に問題はないでしょうか
「問題があると思います。健康診断の結果は個人情報の中でも特に秘匿性の高い情報とされているため、事業者は、情報を共有する範囲を必要最小限にするなど厳格に管理をする必要があります。
それにもかかわらず、担当者以外の関係のない者も閲覧可能な状態に置くことは法律上保護された利益であるプライバシーを侵害するものと考えます」
ーーどのような法的手段をとることが考えられるでしょうか
「閲覧可能な状況にある場合は、プライバシー侵害を防止するため差止請求が可能です。また、既に発生したプライバシー侵害に対しては慰謝料を求める損害賠償請求も可能です」