構造改革を進める富士通が明らかにした配置転換方針が話題になっている。人事や総務、経理などの間接部門の従業員について、研修を通じて営業やシステムエンジニアなど、ITサービスの職種に転換を促すというのだ。
日本経済新聞(10月26日電子版)によると、対象となる間接部門の従業員は2万人。2020年度をめどに、5000人規模の配置転換を進めるという。読売新聞によると、配置転換後の仕事があわない場合、転職を支援する制度を提案することもあるという。
この方針についてツイッターでは、「総務や経理がいきなり営業やSEなんてできるわけない」「ワンクッションあるだけで実質は自主退職せいと言われてるようなもんだよな」など、驚きの声があがっている。
さすがに「総務や経理をエンジニアに」というのは無理があるようにみえるのだが、なぜこのような歪んだリストラが発生するのだろうか。山田長正弁護士に聞いた。
●整理解雇は簡単ではないので、配置転換に
間接部門の従業員を解雇して、ITサービスの経験者を新たに採用した方が会社にとっては合理的なのではないか。
「そう簡単な話ではありません。整理解雇を実施するには、法的には下記の(1)~(4)の4要素を総合考慮するとされています。
(1)人員整理の必要性(人員整理をしなければ経営を維持できない状況等であること)
(2)解雇回避努力義務の履行(役員報酬の削減、新規採用の制限、配置転換等により、解雇を避ける努力をしたこと)
(3)人選の合理性(整理解雇の対象者の人選基準が、合理的かつ公平・公正であること)
(4)手続の妥当性(社員や労働組合に対して、誠実な説明・協議を行ったこと)
このような、いわゆる『リストラ』は会社都合で行うものですので、できるだけ回避すべき最終手段と位置付けられています。ですから、実務ではこれら4要素が厳しく判断され、会社としても安易に実施できません。そのため、仮に整理解雇を見据えるとすれば、(2)の解雇回避努力のうちの配置転換を実施することも十分にあり得ます」
配置転換自体になんらかの基準はないのか。
「仮に整理解雇まで見据えていない場合でも、今回のように職種を限定していない社員に関しては、人手が余っている部署から人員不足の部署へ配置転換をすることは、時代・社会・組織等の変化を理由とした配置転換としてあり得ます。
法的には、配転命令を行うに当たり必要な要件として、一般的に、配置転換させられる旨の就業規則上の規定等があることを前提に、
A 業務上の必要性があること
B 不当な動機・目的がないこと
C 労働者に通常甘受すべき程度を著しく超える不利益を負わせないこと
が問題になることが多いですが、結論的には、会社の裁量が広く認められやすく、無効となりづらい運用がなされています。
いずれにしましても、近年のグローバル化、人手不足やIT化・AI化が進む流れにおいて、特に世界企業との激しい競争を強いられる企業には、シビアな構造改革が必要となってきているのでしょう。今後、社員にも企業と同様に厳しい自己改革が求められる時代になってくるのかもしれません」