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2018年07月11日 10時06分

働き方改革法「附帯決議」は悪用防止につながる? 高プロなど労政審で詳細検討始まる

働き方改革法「附帯決議」は悪用防止につながる? 高プロなど労政審で詳細検討始まる
落胆する過労死遺族ら(6月29日の法成立後)

「働き方改革関連法」の成立を受け、7月10日から公労使による労働政策審議会(労政審)での検討が始まった。

同法は、改正労働基準法など8つの法律からなり、(1)罰則付きの残業規制、(2)同一労働同一賃金、(3)高度プロフェッショナル制(高プロ)が主な柱になっている。

このうち、国会で大きな焦点になったのは高プロだ。労働時間規制が外されるため、長時間労働への歯止めがきかなくなると野党が批判。6月28日の参院厚労委では、高プロも含め47項目の附帯決議も可決されている(衆議院では12項目)。

高プロに関するものは13項目。今後つくられる省令などで、(1)具体的な適用対象、(2)労働者の裁量、(3)自動更新の不可、を明記することや労基署による監督指導の徹底などを求めている。

労政審では、こうした附帯決議も踏まえて、秋ごろから高プロの議論が進められていく。労働問題の専門家として、今回の決議の内容や、労政審のポイントをどう見るのか。友弘克幸弁護士に聞いた。

●附帯決議に法的拘束力はない 「項目の多さ=懸念の多さ」

ーーそもそも附帯決議にはどんな効力があるのでしょうか?

「附帯決議は、法律の執行にあたって政府が留意すべき事項を示すもののほか、関連する制度などについての検討や見直しを求めたり、予算への配慮を求めたりするなど、多様な内容があります。

本案となる法律案とは別に採決が行われるので、法律案そのものには反対する会派であっても、『法律案が成立するのであればこうしてほしい』ということで附帯決議には賛成するということがあります。

附帯決議には、法律と同じような意味での拘束力はありませんが、政治的には、政府はこれを守るべきものであると考えられます」

ーー法的拘束力はないんですね。今回の附帯決議は全体で47項目、高プロに限っても13項目と大量にあります。どう考えたら良いでしょうか?

「附帯決議の数の多さからは、『働き方改革関連法案』の問題点として2つの点が指摘できると思います。

1つは、法案の構成です。もともと『働き方改革改革関連法案』は、8つの法律(労働基準法、労働安全衛生法、労働契約法、労働者派遣法など)の改正を、1つの法案に束ねたものです。盛り沢山の内容を無理やり1つにしてしまったため、必然的に附帯決議の数も多くなった、という側面があるのではないでしょうか。

本来であれば、十分な審議を行うためにも、別々の法案として提出されるべきでした」

ーー別々に審議しろという話は国会でもずっと出ていましたね

「もう1つは、やはり、法律についての『懸念』の大きさが、附帯決議の数の多さに現れているということです。

そもそも附帯決議とは、さきほど述べたように、本来は、政府が法律を執行するに当たって留意すべき事項を示すものです。しかし、実際には『条文を修正するには至らなかったものの、これを附帯決議に盛り込むことにより、その後の運用に国会として注文を付ける』といった趣旨のものも少なくありません。

今回の法案については、『省令に委任されている事項が多すぎるのではないか』といった趣旨の指摘が繰り返しなされました(政府の答弁によれば、法案全体では、省令への委任事項は約60項目にも及ぶそうです)。

とりわけ高プロについては、重要な内容にもかかわらず、法律の条文では明確に定められず、政府側が『法案の成立後に省令・指針で定める』と答弁したものが多くありました。13項目もの附帯決議がついたのは、参議院厚生労働委員会の議員たちの『懸念』の大きさを示すものと言えるのではないでしょうか」

●審議で問題視されたけど、附帯決議に含まれなかった内容も

ーー附帯決議をどう評価されますか?

「私も参議院での全ての審議をチェックしていたわけではありませんが、附帯決議の内容を見ますと、参議院での審議の内容が、かなり反映されているという印象を受けました。

たとえば、高プロの対象業務について、法律の条文の表現ではあまりにも曖昧だ、ということが繰り返し批判されましたが、附帯決議の第20項で『省令で具体的かつ明確に限定列挙する』とされました。

『限定列挙』というのは、要するに『省令で定められた限定された業務以外には高プロは使えません』ということですので、この附帯決議のとおりに省令が定められるのであれば、使用者にとっては、一定の『縛り』になります」

ーー審議の内容は網羅されていると考えても良いのでしょうか?

「審議では論点とされながら、附帯決議で抜け落ちたと思われる点もいくつかあります。

1つ目は、『高プロは短期の有期雇用契約でも適用が可能なのか』という論点です。

審議の終盤(6月26日)で、野党議員からこの点を質問された厚労省の山越敬一・労働基準局長は『契約期間が例えば1カ月未満等の短期間のこういった高度プロフェッショナル契約は、働く人が裁量を発揮しにくくなるものでございますので望ましくないと考えておりまして、その旨を指針に明記してまいります』と答弁していましたが、附帯決議には、この点は特に盛り込まれていないようです。

2つ目は、高プロの収入要件についてです。『年収1075万円以上』が想定されていると言われていますが(条文上は、『平均給与額の3倍を相当程度上回る』額としかされていません)、参議院の審議では、この1075万円の支給方法については『法律上何の制限もない』ということが問題視されました。

たとえば、『最初の11カ月間は毎月20万円ずつ支給して、最後の1カ月に855万円を支給する』といった契約でも『年収1075万円』になります。そういったバランスの悪い支給方法で契約して、最後の855万円を受け取る前に長時間労働で体調を崩すなどして退職を余儀なくされたら、労働者にとっては踏んだり蹴ったりではないか、というわけです。この論点も、附帯決議では触れられていません。

ーー国会審議では、最低賃金を下回ってはいけないという話でしたが、金額のバランス次第では気になる部分です。附帯決議では、高プロの悪用を防ぐため、多くの項目で労基署による監督指導も求めています。これは実現可能なのでしょうか?

「『監督指導』と簡単に言いますが、現場で働く労働基準監督官からすれば、『武器』がなければ戦えませんよね。

たとえば、附帯決議の第27項で、『高プロの同意の撤回を求めた労働者にいかなる不利益取扱いもしてはならないことについて、周知徹底し、監督指導を徹底すること』という内容があります。

しかし、そもそも『高プロの同意を撤回した労働者に不利益取扱いをしてはならない』という内容は、法律の条文には、どこにも書かれていないのです。したがって、使用者が実際に高プロの同意を撤回した労働者に対して不利益な取扱いをしたとしても、罰則を課されるわけではありません」

ーー罰則はないんですか?

「政府は、不利益取扱の禁止を『指針』に明記すると答弁していましたが、『指針』では法的な強制力がありませんので、労働基準監督署による監督指導の根拠としては弱いと感じます。

本来であれば、『指針』ではなく、法律の条文に『同意を撤回した労働者に対して、いかなる不利益な取扱いもしてはならない』と明記すべきだったと思います」

●労政審、近年は労働者側の意見が通りづらい? 「十分かつ丁寧な議論」を

ーー7月10日から労政審が始まりましたが、どういう点をチェックすべきでしょうか?

「高プロについては、数多くの点が、法律より下位の厚生労働省令(省令)で定められることになっています。

労働関係の省令を定めるにあたっては、労政審の意見を聞くことになっていますが、ここ数年、残念ながら、労政審での議論は形骸化しているように感じます。

労政審には労働者を代表する委員も参加していますが、労働者代表の意見はほとんど無視されて、事務局(官僚)主導で無理やり結論が出されているように感じることもあります。

ましてや、高プロについては施行期日が法律で来年4月1日と決まっていて、施行までの期間が限られているうえ、労政審での審議事項は多数にのぼりますので、労政審での議論はかなり形式的なものになるのではないかと危惧しています」

ーー高プロ自体、2015年や2017年の労政審で労働者委員が反対する中、法案に盛り込まれた経緯もありました

「とはいえ、今後私たちにとって重要なことは、附帯決議の内容を踏まえて、労政審で本当に『十分かつ丁寧な議論』(附帯決議30項)が行われているのかどうか、しっかりと監視してゆくことだろうと思います。

内容的に私が特に注目しているのは、やはり、『対象業務』が省令でどう定められるのか、という点です。

附帯決議の21項でも確認されていますが、加藤勝信・厚生労働大臣は、(1)使用者が出退勤時刻や仕事をする時間帯を指定するような業務命令を行う場合や、(2)働き方の裁量を奪うほど過大な成果や業務量を要求したり納期・期限を設定したりする場合には、対象業務とは認められない、という趣旨の答弁をしていました。

『働き方の裁量を奪うほど過大な業務量』というのを、具体的に省令でどう定めるのだろうか、というのは気になるところです」

(弁護士ドットコムニュース)

友弘 克幸弁護士
京都大学法学部卒業。2004年に弁護士登録。日本労働弁護団、大阪労働者弁護団に所属。
残業代請求、解雇、労災など、労働者側に立って労働事件を多く手がける。著書に「よくわかる 未払い残業代請求のキホン」(2018年、労働調査会)。
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