「ママチャリの人」というワードが、4月16日までX(エックス)上でトレンドになっている。
自転車(ママチャリ)に子どもを乗せて走っていた女性を映したドライブレコーダーの動画が投稿され、大きく拡散しているからだ。
映像では、交差点を右折しようとした女性の自転車が、乗用車の前に立ちふさがる形となっている。その後、乗用車に向かって指差して何か叫んだり、スマホで電話したり、撮影したりするような素ぶりもみられる。
この映像だけでは、実際に交通法規に反する行為があったか定かではないが、女性の進行方向は赤信号だったことから、「信号無視」「逆走」「進路妨害」などの交通違反があるとして、大きく批判された。
さらに、モザイクなどの処理がなされず、女性や子どもの顔がハッキリと映っていたため、Xやネットでは「特定」も進んでいる。
そして、「ママチャリ逆走おばさん」呼ばわりしたうえで、真偽は不明ながら、女性の名前や居住エリア、家族構成や夫の勤め先などまでが投稿される事態となっているのだ。
しかし、あまりに過熱する「特定」には、大きな法的リスクが生じる可能性がある。インターネットの問題にくわしい清水陽平弁護士に聞いた。
●一部に公共性があると言えるも、モザイクなしは「報復目的と捉えられる可能性も」
——女性の映像のほか、「特定」した女性の名前などを公開・拡散することにはどんな法的問題があるのでしょうか
違法行為をしているという指摘をする点で名誉毀損、容姿が判別できる状態で投稿されている点で肖像権侵害やプライバシー権侵害、また個人情報を特定して公開している点はプライバシー権侵害の問題があるといえます。
もしも、女性に信号無視や逆走、進路妨害などがあるとすれば、これらは道路交通法違反にあたる行為なので、指摘すること自体には公共性があると言えるでしょう。
しかし、仮に女性の行為に問題があったとしても、それを指摘するのであれば、容姿が判別できないようにモザイク処理などすればよいはずです。
道路交通法違反があるとしても、このような自転車での違反は日常的に起きている違反ともいえ、違反の度合いが軽微であると評価しうる中、あえてモザイクなしで動画を投稿したことから、一定の「報復的目的」があったと見られても仕方ないといえます。
動画を投稿するだけでなく、女性の個人情報を特定して公表していくことも、もっぱら「興味本位」の行動であり、まとめサイト等については「アフィリエイト」報酬目的のもので、いずれも保護するべき必要性に乏しいといえます。
そのため、女性の道路交通法違反が疑われる行為や、その後の行動が正当であるとは必ずしも言えない面が含まれるにしても、それを晒して攻撃対象にするかのような行為が正当であるとすることは難しいといえます。
●誤情報が原因で「別人」に深刻な被害が生じる可能性も
——女性の名前や家族構成などを「特定」したとして、公表する動きもみられます
女性の名前や居住エリア、家族構成や夫の勤め先なども指摘されているようですが、これらの情報が間違っていた場合、間違って特定された人に対する明確な名誉毀損になります。深刻な誹謗中傷を引き起こすことも考えられます。
まとめサイトの中には、民事・刑事で責任を問われることを回避しようとするためか、「誤情報の可能性がある」と注記したものもあるようですが、必ずしもそれだけで免責されるとは限らず、不用意な情報拡散は避けるべきといえます。