いわゆる「働き方改革」の一環で、社員の働き方に理解がある企業を中心に、在宅勤務やカフェでの勤務を認める事例が出始めている。毎日ではないにしても通勤のストレスがなく、育児などとの調整がつけやすいこうした働き方は、社員にとっては大変ありがたい。
ただ、この場合に気になるのが労災の問題だ。通常、会社からの退社時にいつもと同じルートで転倒してケガをした場合、労災として認められるが、例えば会社が認めたカフェで勤務し、終わった後に帰宅していて転んだ場合や、自宅で勤務している途中に熱湯入りのポットを倒して火傷を負ってしまった場合はどうなるのか。北江康親弁護士に聞いた。
●カフェが「就業の場所」と認められればOK
ーー例えば事前に上司に伝え、仕事場として承認してもらったカフェでデータ作成などの業務をした後、帰宅途中に転倒してケガをした場合に労災の補償が受けられるのでしょうか
「労災保険法は、業務中のみならず、通勤途中の災害によって生じた傷病等についても『通勤災害』として給付の対象としています。通勤災害と認められるためには、住居と就業の場所との往復時に災害が生じたことが必要です。
ーーカフェは「就業の場所」といえるのでしょうか
「就業の場所としては、会社や工場等本来の業務を行う場所に限定されず、物品を得意先に届け、その得意先から直接帰宅する場合の届け先、出勤扱いとなる研修会の会場等広く認められています。
今回、会社が勤務場所として認めたカフェで現に勤務をしていたとのことですので、就業の場所に該当すると考えられます。従いまして、今回のケースについても通勤災害として労災による補償が受けられるものと思います」
●仕事進捗はマメに職場に報告
ーー次に、例えば自宅で勤務中に熱湯入りのポットを倒して火傷を負った場合に、労災の補償を受けられるのでしょうか
「今度は、勤務途中のケガですので、『業務災害』として補償を受けられるかどうかが問題です。業務災害と認められるためには、ケガが業務上によって生じたことが必要です」
ーー自宅でのケガも業務上によって生じたといえるのでしょうか
「業務上といえるためには、必ずしも事業場内での業務に従事する場合でなければならないわけではなく、出張や社用での外出等事業場の外で仕事をする場合も含み、また在宅勤務をも含みます。
そのため、本件のような自宅で勤務している場合にケガをされた場合についても、業務が原因で生じたのであれば業務災害として補償が受けられます。ただし、ケガが自宅における私的行為が原因の場合については、業務上の災害とはいえませんから補償は受けられません」
ーー業務なのか私的なのか、事実認定は難しそうですね
「はい。今回のようなカフェや自宅での勤務の場合、会社や工場等と異なり、業務ではなく私的な行為を行っている可能性があるため、労災申請の手続きにおいては注意が必要です。
通勤災害のケースではその場所で本当に業務をしていたのか、業務災害のケースでは災害が本当に業務が原因で発生したのか、という点に関する事実認定が難しい場合があります。一概には言いにくいですが、業務時間と私的な時間をしっかりと区別し、仕事の進捗をマメに上司に報告するなどの対応をしておくべきでしょう」