従業員が逮捕されたことによって、「もうそんな従業員がいる会社とは関わりたくない」などと言われ、会社の運営に支障が生じて困っている。このような相談が、弁護士ドットコムの法律相談コーナーに寄せられた。
相談者は、地方の小さな会社に勤めている。ある従業員が逮捕されると、従業員本人だけでなく、その会社の情報までもがネットに拡散されてしまった。その結果、いたずら電話や脅迫まがいの電話がくるとともに、取引先から、「もうそんな従業員がいる会社とは関わりたくない」と取引の打ち切りを示唆するようなことも言われるなど、深刻な事態になった。
さらに「その従業員の担当業務が滞ったり、会社の売り上げが落ちたりと損害が生じています」と相談者は捉えている。そこで、会社内の規則である懲戒処分以外にも、会社に迷惑をかけたとして損害賠償請求をしたい考えだ。
このように、逮捕により会社に迷惑をかけたとして、逮捕された従業員に損害賠償請求をすることはできるのか。山本幸司弁護士に聞いた。
●「冤罪の可能性」も考慮に入れた対応を
「従業員が逮捕された場合、会社としては、まずは、逮捕された従業員本人への聞き取りを含め、事件についての情報を収集する必要があります。犯罪行為をしていないのに間違って逮捕されてしまったという冤罪の可能性もあるからです。
情報収集の結果、逮捕された従業員が犯罪行為をしていたと確認できた場合に、損害賠償を検討することになります。
従業員に対する損害賠償請求が裁判で認められるためには、会社の損害額や、従業員の行為と損害との因果関係について、会社が証明する必要があります」
●「因果関係の証明」は難しい
今回のケースでは、「その従業員の担当業務が滞ったり、会社の売り上げが落ちたりと損害が生じています」と相談者は考えているそうだ。
「今回のケースですが、従業員が逮捕されて、その担当業務が停滞したとしても、会社の損害や因果関係の証明は、容易ではありません。
例えば、会社として、不測の事態が生じたとしても損害が発生しないよう、事前に対応策を講じることが可能であったならば、損害が生じても会社の責任となり、因果関係が認められないことがあります。
また、従業員の逮捕後に会社の売上が減少したとのことですが、売上は様々な要因によって増減するものです。会社の売上が減少して減益となっても、そのうち従業員の犯罪行為を原因とする減益がいくらになるかについては、証明が困難なことも多いでしょう」
今回、相談を寄せた人は、気持ちの面では納得がいかないかもしれない。しかし、まずは冤罪の可能性を考慮し、その上で、本当にその「損害」が、従業員の逮捕によって生じたものか、冷静に検証する必要がある。