企業と組んで、不当な解雇に手を貸す「ブラック産業医」が問題になっているとして、労働問題に取り組む弁護士らが4月13日、厚生労働省に申し入れを行った。
50人以上の労働者がいる事業場は、産業医を選任しなくてはならない。産業医の仕事の1つに、職場復帰の支援があるが、従業員の復職を認めず、休職期間満了で退職に追い込む「クビ切りビジネス」に手を染める者もいるという。
●短時間の面接、主治医の意見聞かずに診断
神奈川県の団体職員だった女性Aさん(43)は、団体内のパワハラやいじめに悩まされ、うつ病を発症。2014年5月に休職した。体調が回復したので、主治医の診断書を添えて復職を申し出たが、団体は復職を認めなかった。産業医がAさんの復職を否とする意見書を出したからだ。Aさんは2015年6月、休職期間満了で退職扱いされた。
この産業医はAさんと30分の面談を1回しただけ。主治医への問い合わせは一度もなく、心理検査もしないで、「統合失調症」「混合性人格障害」など、Aさんがこれまで一度も受けたことのない病名をつけたという。
この産業医から同じような形で、復帰を阻まれ、退職を余儀なくされた人たちはAさんも含め、少なくとも3人。うち1人は別の企業の社員だった。3人はいずれも現在、裁判で退職無効を訴えている。
●「お金を出してくれる企業に迎合せず診断できるのか?」
「この産業医は精神科の臨床経験がない、内科の専門医です。にもかかわらず、主治医の話も聞かず、不合理な診断を下していました」。そう話すのは、Aさんの代理人で今回の申し入れを行った、北神英典弁護士。北神弁護士によると、医師であれば専門にかかわらず、50時間程度の講習を受けるだけで、産業医の認定を受けられるという。
「産業医は10社、20社と掛け持ちすれば、高額な報酬を受けることができます。お金を出してくれる企業に迎合せず、診断を出すことができるのでしょうか。現状は、本人の良心に委ねられているだけで、産業医の中立性、専門性を担保する制度が存在しません」(北神弁護士)
そこで北神弁護士らが求めたのは、次の3点。
(1)復職の可否について、産業医と主治医の判断が異なる場合、産業医が主治医に十分な意見聴取を行うことを法令で義務化すること、(2)法令による産業医に対する懲戒制度の創設、(3)メンタルが原因による休職の場合、精神科専門医でない産業医が復職の可否を判断できないようにすること。
「従業員が裁判を起こして引っ繰り返すことはできるかもしれないが、時間もお金もかかる。本人のメンタルも参ってしまう。きっちりとした制度を作ってほしい」(北神弁護士)