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阪神・オリックス優勝パレード「ボランティア動員」問題、労働弁護士「事実上の強制、批判は真っ当」
パレードの様子(読者提供)

阪神・オリックス優勝パレード「ボランティア動員」問題、労働弁護士「事実上の強制、批判は真っ当」

11月23日に大阪・御堂筋と兵庫・神戸で同時におこなわれた「阪神タイガース、オリックス・バファローズ優勝記念パレード」。約100万人のファンが祝福したビッグイベントだったが、一方で現地対応などを担った大阪府・市の職員が「ボランティア」で参加したことには疑問の声がくすぶり続けていた。

報道などによると、府と市は、職員を対象にパレード当日に活動する人を休日勤務の手当も交通費の支給もないボランティアとして計約3000人を募集。府は希望者の名簿を各部局でとりまとめる、市は部局ごとに集める人数の目安も伝えるなどしていたという。

一方、同様に職員を募集していた兵庫県と神戸市では、参加者はいずれも公務扱いで代休が取れるといい、大阪府・市とは異なる対応だったようだ。社会福祉法人「大阪ボランティア協会」が11月22日、府市に対し、今回の募集方法について「兵庫県・神戸市のように職務と位置づけることが妥当」とする要望書を提出する事態にもなった。

職場でボランティアの呼びかけなどがあれば、断りづらい職員がしぶしぶ参加していたかもしれない。府市の対応は妥当だったのか。労働問題に詳しい笠置裕亮弁護士に解説してもらった。

●ボランティアか労働か…「自発的な参加かどうかが最も重要」

ボランティアは、その名のとおり、あくまでも自発的な意思に基づき無償(ないし実費・交通費を受け取る程度)で社会的・公共的な活動に参加することを言います。

これに対し、労働とは、労働の対価(賃金)を得ながら、使用者の指揮命令のもとで労務提供をすることを言います。

両者の違いは、以下の3点にあると考えられます。

(1)自発的な参加と言えるかどうか (2)労務提供に対する対価が発生するかどうか (3)活動内容が社会性・公共性を帯びているか

中でも、最も重要なのが(1)です。活動内容が社会的に見て、いかに重要なものであったとしても、業務命令として使用者が労働者に対して参加を求めているのであれば、それは業務であり、従事させた時間に応じた賃金を支払う義務が生じるからです。

●大規模イベントの安全対策は「本来は警備会社が担うべき業務」

報道によれば、集められた職員の方々は、ジャンパーを支給され、これを着用しつつ、来場者の誘導や対応等に従事されたとのことです。また、大阪府知事は「あくまでも任意」だと述べていたようですが、参加する職員は部署ごとに必要な職員数まで明示されながら、参加を求められていたとのことです。

業務内容は、自発的に多くの方が参加する性格のものかと言えば、そうではないでしょう。

数十万人の来場が見込まれ、一歩間違えれば市街地で大混乱に巻き込まれ、生命の危険にさらされることもある業務です。

2022年10月に韓国・ソウル市の梨泰院(イテウォン)で生じた159名もの方々が亡くなった雑踏での事故をきっかけに、大規模イベントでの安全対策は、以前にも増して入念に行わなければならないという議論が起こっています。

その安全対策の最前線を、任意参加のボランティアに頼るというのは、社会的な要請とも真っ向から矛盾する対応です。

本来は多額の費用を支払い、警備会社が担うべき業務を、公務員の方々が肩代わりさせられているだけだと言わざるを得ないのではないでしょうか。

●「公務であるとの評価を免れない」

参加者の集め方からしても、単に「自発的に参加したい人はしてね」というものではなく、部署ごとに必要な人数まで明示されていたわけですから、少なくとも各部署内で責任のあるポジションにいる方については、特段の事情がない限り事実上強制的に参加を余儀なくされていたものと思われます。

また、上司から参加を求められた若手職員の方々としても、なかなか断りづらく、やはり事実上の強制となっていたのではないでしょうか。

自発的な参加とは評価しづらく、ボランティアではなく公務であるとの評価を免れないと思われます。

兵庫県・神戸市は公務として位置付けることで参加者を集めており、真逆の対応をとった大阪府・市の対応に対して批判が集まりました。批判は的を射たものと考えます。

プロフィール

笠置 裕亮
笠置 裕亮(かさぎ ゆうすけ)弁護士 横浜法律事務所
開成高校、東京大学法学部、東京大学法科大学院卒。日本労働弁護団本部事務局次長、同常任幹事。民事・刑事・家事事件に加え、働く人の権利を守るための取り組みを行っている。共著に「こども労働法」「就活前に知っておきたいサクッとわかる労働法」(日本法令)、「新労働相談実践マニュアル」「働く人のための労働時間マニュアルVer.2」(日本労働弁護団)などの他、単著にて多数の論文を執筆。

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