アウトドア用品メーカー「パタゴニア」の日本支社が、札幌市の店舗につとめるパート従業員の女性に対して、年内での「雇い止め」を通告したことをめぐり、女性が加盟する労働組合が6月13日、非正規スタッフの雇用期間を5年未満と制限するルール撤回をもとめる署名「約3万筆」を会社側に提出した。
雇い止めの通告があったのは、藤川瑞穂さん。2019年4月から札幌市の店舗にパート従業員として勤務していたが、勤続4年半の同僚スタッフが雇い止めにあったことがきっかけで、2021年12月、札幌地域労組に加盟。2022年7月にはパタゴニアユニオンを結成して団体交渉を重ねてきたが、会社側から「非正規の雇い止め」は撤回されていないという。
藤川さんは来年4月1日に「無期転換権」が発生する予定だったが、今年4月に年内での「雇い止め」を通告されている。
●法改正後に「無期転換逃れ」が頻発している
2013年からの改正労働契約法で、有期雇用でも同じ会社で通算5年を超えて働いた場合、無期雇用の転換を申し込むことができるようになった。安倍晋三首相(当時)は2017年、国会で「ルールを避ける目的で雇い止めをすることは、法の趣旨に照らして望ましいものではない」と答弁したが、実際は「無期転換逃れ」と呼ばれる雇い止めが頻発している。
この日、札幌地域労組とパタゴニアユニオンが都内で記者会見を開いた。札幌地域労組の桃井希生書記次長は次のように語った。
「(団体交渉で、雇い止めの)撤回などを求めていましたが、(会社側から)『パタゴニアの人事政策の根幹です』というふうに言われました。『なんでこんなルールがあるんですか?』と聞いたところ、会社側は『無期転換ルールに対応するため』と説明しました。なので、無期転換させないようにするという意図がはっきりしています」(桃井書記次長)
●藤川さん「パタゴニアの理念、取り組みには共感している」
世界的なメーカーであるパタゴニアは、社会環境活動に力を入れている。会社の利益を環境保護にあてる仕組みを作ったり、フェアトレード認証済みの衣類を作るなど、幅広く社会問題を支援してきた。こうした会社だからこそ、藤川さんは今回の問題に向き合ってくれると信じている。
「パタゴニアの理念に共感しています。今年50周年を迎えるパタゴニアが、創設のころから取り組んできたことの価値を(雇い止め問題で)毀損させてはならないという、ある意味で働いている者にしか守れない部分ではあると思います。会社に対する貢献だと思っていますし、一従業員としての責任ある介入だと思っています」(藤川さん)
無期転換前の雇い止めをめぐっては、他の企業でも問題となっている。日本通運の契約社員だった男性が権利の発生する前日に雇い止めされたとして、地位確認などを求めて裁判を起こしたが、東京高裁は2022年10月、男性の請求を認めず、控訴を棄却する判決を下している。
札幌地域労組によると、藤川さんの雇い止めが撤回されなかった場合、来年以降に裁判を起こすことも検討しているという。