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会社の「飲み会」後に川で死亡→労基署「業務上の事故ではない」…裁判所はどう判断した?
画像はイメージです(Fast&Slow / PIXTA)

会社の「飲み会」後に川で死亡→労基署「業務上の事故ではない」…裁判所はどう判断した?

日々問題なく働いている人でも、いつ労働トラブルに巻き込まれるかわかりません。パワハラ、労災、長時間労働などのトラブルは今もなくなっていないのが現状です。

トラブル発生に備え、過去の裁判例を通じて、実際に発生した労働トラブルとその結末を知っていれば、いざという時の助けになるかもしれません。

今回紹介するケースは、会社の送別会に参加したのち、同僚に宿舎まで送られたものの翌日から行方不明となり、4日後に宿舎から150メートル離れた川の中で亡くなっていたという社員の遺族が遺族補償一時金の支給を求めて提訴したという事例です。林孝匡弁護士の解説をお届けします。

●事件の概要

こんにちは。
弁護士の林孝匡です。

裁判例をザックリ解説します。
会社の【送別会】後の事故で労災が下りなかったケースです。

社員の方は、送別会の後、川で溺死してしまいました(当時22歳)。そこで父親は、労災にあたるとして遺族補償一時金などの支給を請求しましたが、労働基準監督署は「業務上の事故ではない」と判断して認めず。「この送別会への参加は業務じゃない」との判断です。

その後、不服申し立てをしたのですが判断が覆らず。父親は訴訟を提起しました。しかし、裁判所も労基と同じ判断をしました。すなわち「送別会の参加に業務遂行性は認められない」と判断しました。

「この送別会への参加は業務じゃない」と結論づけた理由はザックリ以下のとおりです。

・有志の企画にすぎない
・自由参加であった
・参加費は自腹、会社もちではない
・閉会の挨拶がなく流れ解散

以下、くわしく解説します。
(立川労基署長(東芝エンジニアリング)事件:東京地裁平成11年8月9日判決)

●死亡前後の出来事

会社は東芝エンジニアリング株式会社。お亡くなりになった社員の方(以下「Xさん」)は、ボイラーや発電機の制御盤の試験などの業務を担当していました。

Xさんは会社から出張を命じられ、平成3年11月〜平成4年4月までの間、福島県の発電所で勤務することになりました。

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▼ 送別会の開催
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平成4年3月、同じ現場で働いていた方の送別会が開催されました。従業員Aが企画したもので参加は自由。なので参加しない方もいました。

18時30分ころ、飲食店で従業員Aが開会の挨拶をして送別会が始まりました。そして、22時30分ころ、閉会の挨拶なく流れ解散となりました。Xさんは、従業員Bに送られて23時には宿舎に着きました。

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▼ Xさんが行方不明になる
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翌朝のこと。従業員BがXさんの部屋にいったところ姿が見当たらず、作業所にも出勤していませんでした。同僚らが探し続けましたが発見できず。

送別会から4日後の午後、同僚らがXさんを発見。Xさんは宿舎から150メートル離れた川の中(水深38センチメートル)で全裸で仰向けで倒れており、死亡が確認されました(死因は溺水による窒息死)。

●裁判所の判断

(Caito / PIXTA) (Caito / PIXTA)

裁判所は「送別会の参加に業務遂行性は認められない」と判断しました。理由はザックリ以下のとおりです。

・有志の企画(従業員が幹事となって実施)
・自由参加であった
・参加費は自腹、会社もちではないし補助もなかった
・閉会の挨拶もなく流れ解散

最近の判決で使われている言葉を使うと「会社の支配下になかった」との判断だと思います。

●ほかの裁判例

ほかに業務遂行性が否定された裁判例を紹介します。
これはかなり昔の事件です(昭和50年代)。

■ 福井労基署長事件:名古屋高金沢支部昭和58年9月21日判決

会社主催の忘年会(費用も会社が全額負担) に出席し、その後、頭などを負傷し意識不明の状態になったケース。裁判所は「懇親会等の社外行事に参加することは、通常労働契約の内容となっていないから、右社外行事を行うことが事業運営上緊要なものと客観的に認められ、かつ労働者に対しこれへの参加が強制されているときに限り、労働者の右社外行事への参加が業務行為になる」との判断基準を定立し、これを満たさないとして業務遂行性を否定。

これはカナリ厳しい基準だと思います。「緊急」の宴会など想定しがたく、ほぼ労災が下りないことになってしまうので。下記のとおり、現在ではもう少し緩やかに認定されてるのではと考えます。

●ポイント

「この宴会は業務かな?」を判断するときに、労働基準監督署や裁判所が注目するポイントは概ね以下の通りです。

・参加が強制されているのか
・強制されてないにしても事実上参加せざるを得ない状況だったのか
・会費は会社がもつのか、社員が出すのか

今回紹介した事例は、「業務遂行性なし」と判断されたケースでしたが、上記の判断のもと「業務遂行性あり」とされた事例もあります。

今回は以上です。
これからも働く人に向けてお届けします。

プロフィール

林 孝匡
林 孝匡(はやし たかまさ)弁護士 PLeX法律事務所
【ムズイ法律を、おもしろく】がモットー。コンテンツ作成が専門の弁護士です。働く方に知恵をお届けしています。HP:https://hayashi-jurist.jp Twitter:https://twitter.com/hayashitakamas1

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