俳優や音楽家らでつくる「日本芸能従事者協会」は、フリーランスの芸能従事者などが産業医の指導を受けられる仕組みを今年2月からスタートさせる。同協会が1月27日に都内で発表した。
昨年から臨床心理士にメールで相談できる「芸能従事者こころの119」を始めており、「こころとからだ」の両面で、健康や安全を確保するためにサポートする。課題はまだあるものの、雇用労働者と同じような環境をつくるための一歩としたいとしている。
●フリーランスと産業医の新しい関係をつくり、クリエイターの現場を変えたい
芸能業界ではたらくフリーランスの芸能従事者には、現場責任者による健康確保措置がなく、長時間労働も少なくない。
一方、同協会の調査によると、健康診断受診率は4割以下で、ストレスチェックはほとんどおこなわれておらず、健康面での不安を抱えている人が多いという。
同協会は、産業医による芸能従事者への保健指導だけでなく、仕事現場の環境改善支援まで取り組みたいと考えている。
●権限のない「産業医」が現場の意識をどこまで変えられるか
ただ、フリーランスが働く現場は日々異なり、産業医が現場管理者に何か指摘できる権限はない。
同協会の産業医を引き受けた弥富耕平医師は「芸能従事者と産業医との関係は、これまでの労働法規が想定していなかったものになります。しかし、フリーランスにも、通常の雇用労働者であれば受けられる心身のケア、相談が適切に与えられるべきです」と話す。
健康診断の受診とストレスチェックの受検の推進が第一の課題。そのうえで、現場の実態をまずは把握することが当面のミッションとなるという。業界関係者に産業医の存在を知ってもらいたいと考えている。
「協会の産業医では、現場視察できる法的地位を有していません。私が乗り込んであれこれ言えば、現場からうるさがられることも承知していますが、一部では、考えを尊重してくれる制作者はきっといるはずです。
そうした活動を通じて、『産業医が入った現場は良くなった』という結果を一つひとつ積み重ねることが、将来的には時代を変えていくのではないか」(弥富医師)
フリーランスの芸能従事者は2021年4月から、労災保険への特別加入が認められた。
日本芸能従事者協会の森崎めぐみ代表理事は「労災保険が適用された経緯からしても、労働者と同じ保護が必要と思っています」と話している。