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上司の不倫相手は、私の部下だった!  会社に告げて退職したい 法的な問題は?
(mits / PIXTA)

上司の不倫相手は、私の部下だった! 会社に告げて退職したい 法的な問題は?

職場で社内不倫を知ってしまい、居心地の悪い思いをしている人もいるかもしれません。弁護士ドットコムには、「退職届で二人の関係を記載したい」という相談が寄せられています。

相談者の女性は、同じ部署の女性部下から、子どもがいる男性上司と不倫関係であることを打ち明けられました。それから「部下に簡単に手を出すような人と一緒に仕事をするのが恥ずかしい」と感じるようになり、1週間ほどふさぎ込んで、仕事に支障が出たこともあったそうです。

我慢の限界を迎えた女性は、退職届に社内不倫の事実を記載して、退職することを考えています。社内不倫の事実を会社に明かした場合、当事者から「名誉毀損だ」と訴えられる可能性はあるのでしょうか。下大澤優弁護士に聞きました。

●民事上のリスク

——相談者としては自分が我慢していたこともあり、なんとしてもその事実を伝えたいようです

「職場内で不貞をはたらくような上司と一緒に仕事をするのは無理だ」というお気持ちは十分に理解できます。このような思いから退職を決意すること自体には、何ら問題はありません。

しかし、「退職届に社内不倫の事実を記載する」となると、話は別です。このような行動によって生じる法的リスクは慎重に考えなければなりません。

法的リスクとしてまず考えられるのは、不倫を暴露された当事者(女性部下・男性上司)から、「不倫の事実を会社に知られたことによって社内での評価が下がり、精神的苦痛を受けた。慰謝料を請求する」といった反撃がなされることです。これは、民事上のリスクです。

社内不倫の事実を会社に告げたことが「名誉毀損」や「プライバシー侵害」にあたるとされれば、相談者は不法行為責任を負うことになりかねません。

——退職届などで告げた場合「名誉毀損」にあたるのでしょうか

今回のケースで民事上の「名誉毀損」が認められるかというと、これは微妙なところです。

「名誉毀損」とは、他人の社会的評価を低下させる言動を意味するところ、「社会的評価の低下」が発生するためには、不特定多数の者が社内不倫の事実を知る(少なくとも知る可能性がある)ことが必要です。

相談者の退職届を読むのは会社内の限られた人物にとどまる可能性があるので、「名誉毀損」の成立までは認められない可能性があります。

●プライバシー侵害の成立に注意

むしろ注意すべきは、「プライバシー侵害」です。

社内不倫といえども、基本的には私生活上の出来事です。そして、自身が社内不倫をしているという情報を公開されることは、誰しも望みません。これを前提としますと、社内不倫の事実を会社に知らせることは、不倫当事者に対するプライバシー侵害となる可能性が高いのです。

なお、近年の裁判例では、夫が不倫をしていることを、夫の父親に対し、手紙などを通じて知らせた行為について、名誉毀損とプライバシー侵害が成立するとし、慰謝料30万円の支払いを命じた事案があります(東京地裁令和2年2月10日判決)。相談者も、十分に注意して行動された方がよいでしょう。

●刑事上のリスクは?

——刑事上も法的リスクがありますか

刑事上の「名誉毀損」が成立するリスクについても簡単に触れておきます。刑法上、名誉毀損は犯罪とされます(刑法230条)。

しかし、「退職届に社内不倫の事実を記載する」という行為にとどまる限り、名誉毀損の罪に問われる可能性は低いでしょう。

犯罪行為としての名誉毀損には「公然性」(不特定多数の者が事実を知ること)が要求されるところ、先に述べたとおり、今回のケースではこの条件を満たさないと考えられるからです。

プロフィール

下大澤 優
下大澤 優(しもおおさわ ゆう)弁護士 定禅寺通り法律事務所
2012年司法試験合格、2014年に弁護士登録。勤務弁護士を経て2016年に定禅寺通り法律事務所(仙台市)を開設。離婚・男女関係のトラブル(婚約破棄等)に注力している。 WEBサイト:https://sendai-rikon.com/

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