「アルバイト先が使っているビジネスチャットの通知が、朝から晩までずっと鳴り続いていて苦痛だ」という相談が弁護士ドットコムに寄せられています。
相談者は、アルバイト先が利用しているビジネスチャットのアプリを私物携帯にインストールするよう「強要された」といいます。30名ほどの店舗従業員がメンバーになっており、主に店長が業務に関する連絡をするツールですが、朝から晩までチャットが続くことに苦痛を感じています。
このようなビジネスチャットアプリを導入する職場は増えています。運用には、どのような注意が必要でしょうか。金井英人弁護士に聞きました。
●「労働時間」にあたるかどうか
——勤務時間外のチャットアプリの運用に、法的な問題はないのでしょうか
ビジネスチャットアプリに業務時間外にも連絡や通知があり、従業員がこれに返信したり対応したり等の反応をすることをアルバイト先の店長が指示している場合、その時間が労働時間にあたるかが問題になります。
「労働時間」とは、労働者が使用者の指揮命令下におかれている時間をいいますが、業務時間外でも会社から命じられた仕事をしている時間は、労働時間にあたります。
労働時間には、原則として1日の上限8時間、1週間の上限40時間を超えて働かせてはならず、これを超えて働かせる場合の36協定、時間外労働手当の支給など、様々な法律上の規制があります。こうした規制が定められている大きな理由として、労働者の心身の健康の保持があります。
従業員が業務時間外でもビジネスチャットアプリの連絡や通知に反応したり、対応したりしなければならないとすると、その時間帯はアルバイト先(使用者)の指揮命令下におかれているといえます。労働時間にあたり、法律上の規制の対象にもなりますので、本来であれば使用者はその時間を管理し、給与や時間外労働手当の支給対象としなければなりません。
●業務時間外にはアプリの通知をオフにするという対応も
——現実的に勤務時間外のチャットアプリの使用を管理するのは厳しいように思われます
使用者として業務時間外のビジネスチャットのやり取りの時間を管理できているというケースはあまり多くはないでしょうから、事実上、従業員にただ働きをさせてしまい、労働基準法違反となる可能性もあります。
また、業務時間外でも連絡に反応しなければならないというのは、労働者にとっては精神的に仕事から解放されず、過度なケースでは心身への負荷により病気に罹ってしまうことも考えられます。その場合には労働災害となる可能性もありますし、使用者として責任を問われることもあり得ます。
一方で、業務時間外に来たビジネスチャットの通知や連絡への返信や対応について、店長がそれを指示したり、労働時間として管理したりしていないのであれば、従業員としてこれに返信したり対応したりという義務まではありません。業務時間外にはアプリの通知をオフにするという対応も許されるといえます。
とはいえ、実際には業務時間外に届いた連絡について一切反応しないというのも、それが後々の自分への店長や周囲からの評価に繋がると思うと、なかなか簡単ではありません。ですから、使用者には、ビジネスチャットアプリを導入するのであれば、事実上の業務の強制にならないよう、明確なルール作りと管理体制の確立が必要といえるでしょう。
●正社員とアルバイトでは違いがある?
——正社員、裁量労働制の正社員、アルバイトとでは、違法かどうかを論じる上で違いはあるのでしょうか
これまで説明したことは、従業員が正社員であるか、アルバイトであるかに関わらずあてはまるものですが、裁量労働制で働く従業員の場合、明確な業務時間帯がなく、1日中ビジネスチャットに対応しなければならないとも考えられます。
ただ、近年の働き方改革により、裁量労働制で働く従業員についても、使用者は健康及び福祉を確保するための措置をとらなければならないとされており、従業員が1日中ビジネスチャットから解放されず、休息やプライベートを失うようなことのないよう、労働時間の把握に努めなければなりません。
ビジネスチャットは大変便利ですが、それを導入する使用者にも、利用する従業員にも、適切な配慮が求められます。