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自治体の女性職員を撮影、SNS投稿する「セクハラ&カスハラ」も 「納税者だから」の歪んだ意識
写真はイメージです(EKAKI / PIXTA)

自治体の女性職員を撮影、SNS投稿する「セクハラ&カスハラ」も 「納税者だから」の歪んだ意識

顧客からひどい暴言や暴行、不当な要求などを受ける「カスタマーハラスメント(カスハラ)」。サービス業だけではなく、自治体職員へのカスハラが深刻になっている。全日本自治団体労働組合(自治労)が2020年に行った調査では約半数の職員が暴言や説教、長時間のクレームを受けている実態が明らかになった。

訴訟に発展するケースや職員が休職や退職に追い込まれるケースもある。自治労の森本正宏総合労働局長は「『税金を払っているから何を言ってもいい』という考えが、自治体カスハラの根底にある」と指摘する。

セクハラやパワハラは法律で事業主に防止措置が義務付けられているが、カスハラは法整備が進んでいないことも課題だ。自治労はカスハラの基準などを明示したマニュアル作成に乗り出している。森本局長に自治体カスハラの実態や課題を聞いた。(ライター・国分瑠衣子)

画像タイトル 自治労の森本正宏総合労働局長

●虐待措置に逆恨み「家をつきとめて家族を殺してやる」と迷惑電話

自治労がまとめた調査報告書には、自治体職員が受けた深刻なカスハラ被害が記されている。

・「税金で生活しているのだからお前たちは奴隷だ」などと言われた  
・税金を過去に遡って下げるように要求され、1年間ほど1日中居座られた  
・個人番号カード事務センターで言葉尻を捉え、3年にわたりクレームが続き、謝罪文を3回にわたり要求され、現在も継続中  
・「担当者がお前に変わってから生活保護費が減ったため、着服しているだろう」「名前が気に入らない」と面前で罵声を浴びせられた  
・虐待措置で、加害者であった家族から逆恨みされ「お前を殺してやる」「家をつきとめて家族を殺してやる」といった電話を何度も職場にかけられ、上司が警察に相談した  
・収集した不燃ごみの弁償を要求された  
・コロナウイルス感染者の個人情報の開示要求  
・SNS上での誹謗中傷があり、個人で削除依頼したが、削除できないものもあった。組織による対応はできなかった  
・バス運行の車線変更の際、車間を詰められた。相手の言い分は割り込みで、終点で約2時間足止めされ運行中断となった  
・バス運行で、乗客がお金を払わなかったので注意したところ、激怒され、他のお客様にも怒りだし30分遅延した

●特定の個人への長時間対応で、公平なサービスが困難に

――調査報告書では、長時間の居座りや暴言などが目立ちます。こうしたカスハラ被害は以前からあったのでしょうか。カスハラが起きる背景は何だと考えますか。

以前から長時間の居座りなどクレームはありました。ひどいケースでは職場にガソリンや灯油をまかれる、ナイフでさされたり、役所に車で突っ込まれたりといった、警察が関与する事件も発生しています。SNSで、無断撮影された職員の名前が広がり、住所を特定され、二次被害が起きるケースも少なくありません。

前提として、住民から正当なクレームを受けて対応にあたり、業務改善につなげることは必要なことです。ただ、ルール上できないことにも対応してほしいという度を越したクレームが増えています。

自治体職員は、住民に公平にサービスを提供しなければなりません。ですが、特定の個人に長時間対応することで、公平なサービスの提供が難しい場面も出てきています。自治体職員は比較的クレームに強いと思いますが、耐えきれずにうつ病を発症し、長期休職する職員がいます。中には復帰できずに退職するケースもあります。

カスハラの要因はひとつではありませんが、個人的には所得格差の拡大が背景のひとつにあるのではと感じています。生活に困窮し行政に不満を持った人が「公務員は税金で食べさせてもらっているのだから、何を言ってもいいんだ」という誤った認識がSNSなどを通じて広がっています。また、地方公務員の数が減る中、自治体職員の業務量は増えています。

●悪質カスハラの個人名を公表すべきか

――悪質なカスハラの場合、自治体のサイトでハラスメントをした人の名前を公表する制度を設けた自治体もありますが、実際に公表件数は非常に少ないようです。庁舎管理規定や条例制定でどこまで規制したほうがいいのでしょうか。

一般住民の方が自身の置かれた状況を説明したり、疑問に思う点を話したりすることは、長時間を要してしまうことがあります。それを個人の名前を挙げて自治体が公表するというのが微妙なのだと思います。

自治体は庁舎管理規定で、不当要求行為への対応策を定めていますが、一つの自治体だけではカスハラで庁舎管理規定を適用するかどうかの判断が非常に難しく、実際に規定が運用されているとは言えない状態です。

――自治労はカスハラ防止策にどう取り組んでいますか。

カスハラの一定の基準を示し、職場で運用できるようにする「カスハラ対策マニュアル」の策定を進めていて、2、3カ月後には完成予定です。数時間にも及ぶクレームを受けている時に職員1人が対応するのではなく、上司など複数人での対応や、記録をとるなどの具体策を示したいと考えています。

ただ、自治体が運営するバスの運転手のように職員1人という職場では、別の対策が必要になり、考えるべき課題は多いです。被害者のケアや相談窓口の設置、弁護士など外部との連携も大切です。

また、マニュアルにはカスハラによる正常な就業環境を悪化させる行為や、人格権の侵害が起きた場合、使用者側に求めることも盛り込む計画です。

●「事業者への対策義務づけを国に訴えたい」

――セクハラやパワハラ、マタハラを防止する法律はありますが、カスハラは法整備が進んでいません。

「改正労働施策総合推進法(パワハラ防止法)」や、「男女雇用機会均等法及び育児・介護休業法」で事業主にパワハラやセクハラ、マタハラを防止する措置義務が課されていますが、カスハラは事業者に対策が義務付けられていません。

ILO(国際労働機関)は2019年に職場でのハラスメントや暴力を全面的に禁止する国際条約を採択しています。この基準を満たした形で法制化することが望ましいのではないでしょうか。自治労として事業者への対策義務付けなどを国に訴えていきたいと考えています。

ハラスメントに関連した法律がバラバラでいいのかという問題もあります。例えば、無断で女性職員の姿を撮影し、インターネットで動画投稿するなど、セクハラの要素を含むカスハラも多い。

カスハラは第三者による行為なので、事業主がどこまで使用者としての責任を負うのかという問題もあります。私はカスハラも事業主が責任を負うべきだと思いますが、こうした位置づけの必要性も訴えたいです。

住民からの問題意識の提起やクレームはあって然るべきです。ただ、度を越したカスハラがあるという実態を皆さんに知ってもらいたい。社会全体で互いを思いやるということが浸透してほしいと思っています。

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