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なぜ有期雇用労働者は「無期転換」を望まないのか? 「希望する」は3割弱、厚労省調査の読み方
厚生労働省(千和 / PIXTA)

なぜ有期雇用労働者は「無期転換」を望まないのか? 「希望する」は3割弱、厚労省調査の読み方

同じ職場で5年超働くと、有期契約から無期契約への転換が申し込める「無期転換ルール」。しかし、厚労省が初の実態調査をおこなったところ、申込権を取得した労働者のうち、実際に使用した人は27.8%にとどまったという。

賃金などの条件が必ずしも上がるわけではないが、無期契約になれば雇止めの心配はなくなり雇用は安定する。一方、企業からすれば辞めさせづらくなるため、無期転換の申し込みが始まった2018年度には「無期転換逃れ」が度々ニュースにもなった。

しかし、今回の調査に目を向けると、無期転換を希望するかとの問いについても、定年前の15~59歳ですら、希望する(22.3%)が希望しない(15.7%)を僅かに上回っただけで、わからない(57.2%)がもっとも多かった。

非正規雇用(有期雇用)の労働者の救済策として期待されていた無期転換ルールだが、どうして低調なのだろうか。非正規問題に取り組んでいる青龍美和子弁護士に分析してもらった。

●そもそも無期転換ができない雇用条件

意外と労働者は無期転換を求めていないのだろうか。青龍弁護士は今回の調査結果を分析し、必ずしもそうではないと否定する。根拠は大きく3つあるという。

(1)有期契約労働者の年齢が比較的高い

「調査の回答者のうち、もっとも多い年代は60~64歳(15.9%)で、60歳以上が全体の4分の1を超えています。定年が近かったり、定年後再雇用だったりする可能性が高く、無期転換のメリットがあまりないのだと思います。

実際に無期転換を希望しない理由の第1位も『高齢だから、定年後の再雇用者だから』(40.2%)でした」(青龍弁護士)

(2)無期転換権が行使できるほどの通算勤続年数がない(上限が定められている)

「通算勤続年数の上限ありと答えた人が52.5%いました。このうち、上限3年超~5年以内が29.6%、1年超~3年以内が25.6%で半数を超えています。事業主が無期転換権の行使を事前に抑止していると考えられます。

無期転換申込権が発生しない人に希望を聞いても、そもそも考えたことがないということも多いのではないでしょうか」(同)

(3)無期転換ルールを知らない人が多いのではないか

「無期転換ルールに関して、具体的に知っている内容があると答えた人は38.5%でした。これに対して、何も知らない・聞いたことがないという人は39.9%で、知らない人の方が多い結果になっています。また、勤務先に無期転換制度があるかどうかわからないという人も65.6%いました。

制度についてそもそも知らない、あるいは良くわかっていないという人が多いのかもしれません」(同)

●労働条件は変わらずではメリットに乏しい?

青龍弁護士は、同一労働同一賃金で注目されたメトロコマース事件など、非正規雇用の労働者の事件も多く扱ってきた。相談を受けた有期の労働者からは、次のような声も聞いたことがあるという。

・無期転換後の労働条件がわからない(企業内で無期転換後の労働条件=就業規則が整備されていない)

・無期転換後も労働条件が変わらないため、無期転換権を行使するメリットがない

・無期転換してしまうと、有期契約労働者に適用される法律(旧労働契約法20条、現行パート有期法)が適用されなくなってしまう。無期契約労働者と比較して不合理な労働条件の相違や差別的取扱いを禁止した、有期契約労働者の権利を保障する制度が使えないと考えられている

●制度見直しの議論も

厚労省は今後、この調査結果も踏まえて、制度の見直しをしていくようだ。非正規労働者を守るうえで、労働組合などはどのような改善を求めていくべきか、青龍弁護士に以下7点を挙げてもらった。

(1)そもそも有期労働契約の締結事由を規制する(入り口規制)

(2)無期転換に必要な通算勤続年数の要件を引き下げる(5年超より短くする)

(3)無期転換後の労働者も、パート有期法8条・9条の適用対象とする

(4)労働者、使用者の双方に、無期転換ルールの周知徹底をする

(5)無期転換後の労働条件(無期転換労働者の就業規則など)の整備を徹底させる

(6)無期転換逃れ(回避)の雇止めを明確に違法とする

(7)更新回数や通算勤続年数の上限の設定を禁止(あるいは制限)する

この記事は、公開日時点の情報や法律に基づいています。

プロフィール

青龍 美和子
青龍 美和子(せいりゅう みわこ)弁護士 東京法律事務所
2011年12月弁護士登録。解雇や雇止め、セクハラ・パワハラ、労働組合に対する不当労働行為などの労働事件を担当し、離婚やDVなどの家庭問題にも取り組む。福島原発事故訴訟やB型肝炎訴訟などの集団訴訟にも参加している。

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