レジで会計処理する店員さん、実はその直前に、素手で便器を洗っていたーー。驚きの体験談が、弁護士ドットコムライフの「体験談募集」に寄せられました。ある地方都市のホームセンターで働いていた方からの投稿です。
投稿した方によれば、「店長に素手で便器を洗うように」と命令されたそうです。そして「そのあと、手を洗わないように言われ、そのままレジに入りお客様にその手でお会計のお釣りを渡すように命令されました」といいます。
「お客様にばい菌やウイルスを感染させてしまうと思います。法律上、なんらかの法律に違反していませんか?」と心配していますが、その事実を知れば、客が不快感を覚えるのも当然でしょう。
どのような法的な問題があるのでしょうか。大西敦弁護士の解説をお届けします。
●店長の命令はどのような問題がある?
店長の命令は、労働安全衛生法違反となります。
労働安全衛生法は、事業者は、病原体等による健康障害を防止するため必要な措置を講じなければならない(22条)。また、労働者を就業させる作業場について、清潔に必要な措置、労働者の健康、風紀及び生命の保持のため必要な措置を講じなければならないと定めています(23条)。
便器には、細菌やウイルスが多数付着していることは言うまでもありません。したがって、素手で便器を洗うことは、従業員の健康被害につながることになります。汚れた手で掃除用具や他の箇所を触ることで、細菌やウイルスを店内にまき散らす結果になってしまいます。
また、食品を扱うようなホームセンターでは、食品に細菌やウイルスが付着すれば、食中毒を引き起こす危険があります。不十分な衛生管理を理由として食中毒が発生した場合には、ホームセンターは食品衛生法に基づき営業停止処分を受けることになります。
●従業員や客が、健康被害を被ったら?
従業員や客が、健康被害を被った場合には、ホームセンター側に対して、損害賠償請求が可能です。従業員については、労働に起因する健康被害ということにもなりますので、労災にもなります。
なお、素手で便器を洗えという命令は、違法な命令(労働安全衛生法違反)となりますので、従業員がその命令を拒否したとしても、減給や解雇といった懲戒処分を行うことは許されないと考えられます。
(弁護士ドットコムライフ)