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2020年12月17日 09時46分

最高裁は「日本の雇用システム」にどう切り込んだのか 明治大・野川忍教授が語る「同一労働同一賃金論」

新志 有裕 新志 有裕
最高裁は「日本の雇用システム」にどう切り込んだのか 明治大・野川忍教授が語る「同一労働同一賃金論」
野川忍・明治大学法務研究科教授

最高裁は2020年10月、正社員と非正規雇用労働者の同一労働同一賃金に関する3つの判決を立て続けに出した。

10月13日の大阪医科薬科大学事件では「賞与」、同日のメトロコマース事件では「退職金」が争点とされ、いずれも正社員と非正規雇用労働者の職務内容に一定の相違があることを理由に非正規雇用労働者に対する不支給を「不合理ではない」とした。

一方、10月15日の日本郵便事件では、「年末年始勤務手当、祝休日手当、扶養手当、夏期冬期休暇、私傷病の有給休暇」をめぐる待遇差について、両者の職務内容等に違いがあるとしながらも、待遇の趣旨を個別に考慮した結果、「不合理」なものと判断している(日本郵便事件については、東京、大阪、佐賀地裁への提訴から始まり、東京高裁、大阪高裁、福岡高裁の各控訴審を経た3件についてまとめて判決)。

最高裁は、同一労働同一賃金の観点から、長期雇用を前提にした正規雇用と、その枠外に置かれた非正規雇用との格差という、日本の雇用システムにどう切り込んだのか。野川忍・明治大学専門職大学院法務研究科教授(労働法)に聞いた。(ライター・坪義生、新志有裕)

●最高裁判決は、賃金項目ごとの事情を個別に判断することを強調した

――今回の最高裁判決で最も重要と思われたポイントは何でしょうか。

判決は労働契約法(以下、「労契法」)旧20条(不合理な労働条件の禁止)に反して不合理かどうかが争われた事案ですが、その条文自体はすでに削除されています。

2020年4月からはこれとパートタイム労働法8条(短時間労働者の待遇の原則)とが合体・再構成されたパートタイム・有期雇用労働法(以下、「パ有法」)8条(不合理な待遇の禁止)が施行されており、この解釈適用を非常に意識した判決になっていると思います。

一言で要約すれば、今後、同様の事案についてパ有法で判断するとしたら、8条の適用をどうするか、というサジェスチョンが含まれている、いわば橋渡し判決と言えるでしょう。

――今回、パ有法8条に書かれているような内容で労契法旧20条の解釈がされたということでしょうか。

労契法旧20条がパ有法8条に統合されたというのはそうなんですが、明らかに違う点があります。

まず、パ有法8条では、従来のパートタイム労働法8条で単に「待遇」としていたものを「基本給、賞与その他の待遇それぞれ」についてとし、賃金の場合も賃金全体を総合的に判断するのではなく、個別の賃金項目ごとに検討するべきことを明文化しています。

また、労契法旧20条と旧パートタイム労働法8条で不合理性の判断について「その他の事情を考慮して」とのみ記載されていた内容を、パ有法8条では「その他の事情のうち、当該待遇の性質及び当該待遇を行う目的に照らして適切と認められるものを考慮して」としています。

この2つが条文を見てすぐにわかる大きな違いですが、それを意識した判決になっていると思いますね。

判決では、各賃金項目の趣旨・目的について強調していますし、それぞれの項目ごとに判断するということを繰り返し言っています。

適切かどうかは評価ですから、そういう評価的な観点から見ますよということもはっきりと示しました。

大阪医科薬科大学事件の「賞与」、メトロコマース事件の「退職金」にしても、結果的にはどちらも不合理ではないとしましたが、判決では、不合理ということもありうるということをわざわざ言っています。

日本郵便事件では、高裁で不合理ではないとした扶養手当がひっくり返って不合理となりました。

正社員のように「継続的な勤務が見込まれる労働者に対して扶養手当を支給するとすることは使用者の判断として尊重し得る」としながら、非正規社員でも相応に継続的な勤務が見込まれる場合は異なってくると判断しています。

一連の最高裁判決では、賃金項目ごとの事情を個別に判断して、ということを非常に強調していることが一番大きなポイントだったと思いますね。

――今後、同様の事案については、パ有法8条で同じような判断がされる可能性はあるのでしょうか。

パ有法14条(事業主が講ずる措置の内容等の説明)では、8条も含めて措置の内容について雇入れ時の説明義務が課されたので、それも加味した形で検討されることになるでしょう。

その説明がなされていない場合は、8条との関係で待遇が適切でないと判断されることもありえますから、労契法旧20条における判断と違ってくると思います。

●最高裁は高裁と異なり、処遇差の割合を認めることを避けた

――諸手当が争点になった日本郵便事件ついて、どのようにご覧になったのか、さらにお聞かせください。

日本郵便事件では、正社員が3つのコースに分かれていました。平成25年度までの旧一般職と、新一般職、地域基幹職からなる正社員ですね。非正規従業員である期間雇用社員は、さらに5つに分かれていました。

区分が細かいんですよ。そうすると、どこに比較のターゲットを置くかによって判断がかなり変わってくるわけです。

新一般職は、期間の定めなく雇用されていますが、窓口業務や郵便内務・外務など標準的な業務に従事し、管理業務を行うことは予定されていません。

原告の非正規従業員である期間雇用社員も、外務や内務事務のうち特定の定型業務に従事し、管理業務に就くことは予定されていませんでした。

職務の内容にも異動の範囲にもあまり違いがない社員が比較対象とされたので、労契法20条の「職務の内容」、「変更の範囲」の違いは小さいということになります。

その他の事情についても、各手当の趣旨・目的に照らすと、これはあまり違いがないということで、不合理性が認められやすい。実態の前提としてです。

しかし、日本郵便事件の大阪高裁では、年末年始勤務手当などで結果として勤続期間が5年を超えたら待遇差は不合理となりうるとしながら、5年以下であれば待遇差を認めるという工夫をしました。

大阪高裁がこうした考慮をしたにもかかわらず、最高裁は認めませんでしたね。これは大きな特徴かと思います。

――そうですね。最高裁は今回も、処遇差の割合については一切、認めなかったですね。そういう判断を避けているということなのでしょうか。

今のところ避けていると言えるでしょう。高裁レベルでは、判例としての影響はさほど大きくありません。

高裁は、大阪医科薬科大学事件では、賞与について正職員の支給基準の60%を下回る支給しかしない場合は不合理な相違に至るものというべきとしましたし、メトロコマース事件では、退職金について正社員と同一の基準に基づいて算定した額の少なくとも4分の1を支給しない場合は不合理という判断をしましたね。

いずれも、あれは実態を踏まえた個別の判断だと言ったところで、世間はそうは思いません。これが最高裁の判決となると、権威付けされてそこが独り歩きするんですね。

労使交渉で40%支払いましょうという話になったときに、最高裁は4分の1でいいと言っているじゃないかということにもなります。こういうことが慣例になってしまうわけです。

だから最高裁は、こうしたことには慎重です。現場で労使が話し合って決めてくださいということで介入しないんです。そもそも、最高裁も個別の事情を全部わかっているわけではないですし。

高裁レベルまでは、一種の大岡裁きのような感じで法廷判断として最終的にどうなるかは置いておいて、上告せずに納得してくれれば、こういう例もあるということで終わるんですよ。

●比較対象は正社員全体ではなく、特定の類型で判断

――最高裁では、大阪医科薬科大学事件もメトロコマース事件も、比較対象とする正社員について、正社員全体ではなく、労働者側が求めていた特定の類型で判断していますね。

比較対象になるような働き方というのは正社員の全部ではないので、それがわかるときには特定して判断しましょうというメッセージでしょう。

比較の対象となる正社員は、基本的に非正規労働者側が選択できるものとする見解もありますが、最高裁はそこまでは言っていません。ただ、全体ではないというのは確かです。

大阪医科薬科大学事件では、裁判官5人全員が不合理でないと言っているため、とても冷たい印象があります。

しかし、判決をよく読むと、高裁では比較対象が正社員全体であって、一部ではないとはっきり言っていたのをひっくり返しています。正社員全体ではなく、「教室事務に従事する正職員」に限定しているんですよね。

今後の企業実務としては、人事側も正社員の類型を考え直さないと苦労することになるのではないでしょうか。類型ごとの違いをどうするか、非常に大変だと思います。

――人事制度上、正社員を厚遇する「有為人材確保論」について、今回、最高裁はそれに近いことを書いているようにみえますが、どう判断したのでしょうか。

今回は、言葉を少し変えていますね。大阪医科薬科大学事件の判決では、「賞与は、正職員としての職務を遂行できる人材を確保し、定着を図る目的で支給している」としています。

最高裁としては、具体化したつもりだと思います。正社員固有の求められる能力や知識・経験がある人材を求めるのであれば、これくらいの処遇があれば、それなりに励みになるということを言っているわけです。

同様のことは、退職金についても確かに言いやすい内容ですよね。そもそも、賞与も退職金も諸外国では一般的ではありません。

私の専門であるドイツでは通常は両方ともないですね。賞与については、12回に分けて月例給与で支払えばいいし、退職金は年金があるからなくてもいいじゃないかと。

であれば、なぜ日本ではあるのかと言えば、頑張ってねというメッセージなんです。賞与にしても退職金にしても、頑張れば、こういうご褒美があるということだと思います。

しかし、実際には正社員の平均勤続年数が3年半程度の会社もたくさんあるわけです。

非正規社員のほうが定着度が高く、長期間勤続しているケースも少なくありません。仕事の内容は、定型業務が多く、経験を積めばうまくやっていくことができますから、非正規社員でも有為な人材ということになるでしょう。

スーパーのレジ打ち業務にしても、非正規のベテランの社員のほうが正社員よりも仕事ができますよね。顧客の対応にしても、よほどしっかりしていることは往々にしてあります。

こうしたことを会社側が不審に思っていないとすれば、長期勤続の人材自体に関心がないことになり、賞与や退職金が有為な人材確保のためという理屈は、全面的には成り立たないことになります。

最高裁判決も、人事の実態に応じた判断事例の適用場面では、必ずしも会社側に有利ということにはならないと思いますね。

――結局、今回の最高裁判決は個別に判断するということが強調されていると。

そうだと思いますね。大阪医科薬科大学事件もメトロコマース事件も高裁判決がひっくり返されましたけど、大阪医科薬科大学事件の場合、原告の女性労働者は3年で辞めているんですね。

最後の1年は病気で休んでいて実際には2年しか働いていないんです。そうすると、アルバイト従業員で実質2年しか勤続しない人に賞与を払わないというのが不合理かというと、それは少なくともただちにそうは言えないのではないでしょうか。

仮に非正規でも勤続15年で成果を上げているということであれば、違った判断になったと思います。

ですから、非正規社員には賞与を支払わなくていいという一般的なルールができたということにはなりません。

●ジョブ型雇用が広がれば問題は変わってくる

――昨年6月の規制改革推進会議の答申の中に「ジョブ型正社員の雇用ルールの明確化の検討」というものがあり、 労契法に規定する労働契約の内容の確認について、職務や勤務地等の限定の内容について書面で確実に確認できるような方策が挙げられています。先生が内閣府からの聞き取りでお話になったことで盛り込まれたそうですが、これが普及すれば今回のような問題はなくなっていくのでしょうか。

方向としては、かなり変わってくると思いますね。

現行の労契法4条では、「労働者及び使用者は、労働契約の内容(期間の定めのある労働契約に関する事項を含む。)について、できる限り書面により確認するものとする」とあります。

これを少し変えて、どういう仕事をして、どこで働くのかについて書面で確認しましょうというものです。

ただ、政府の定義ではジョブ型というのは、仕事と勤務地が限定されているものを指しているのですが、これは適切ではありません。

私が言っているジョブ型というのは、「どんな仕事をどこでするのか」を使用者と労働者が合意するという合意型の社員なんです。

いろんな仕事をしてもかまわないんですね。ただし、そういう働き方をすることについて合意すればいい、ということです。限定かどうかではなく、明確な合意のうえで現在の仕事をしているかどうかが重要なわけです。

合意の内容に対して賃金等の処遇がなされれば、使用者の裁量で定着云々という人事制度の運用などが混じって判断が難しくなるということは、かなり減るのではないかと思いますね。

●正社員も含めた手当削減の流れをどうみるか

――日本郵便事件では手当をめぐる待遇差が争点になり、不合理と判断されました。この影響なのか、企業では手当を廃止しようという動きがあるようなのですが。

私も企業の人事から、そうした話を聞いています。

特に扶養手当については、働くお父さんと家庭を守るお母さん、そして子ども2人という、昔ながらの世帯が前提でできているんですね。

今、家族の形が大きく変わってきています。一人暮らしや共働きの社員が多数派となっていますよね。

最終的には、合理的理由があるものだけを残し、究極的には本給一本という方向になると思います。全面的にすぐになくなることはないでしょうが、見直す機会にはなりましたね。

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