スーパーマーケットやドラッグストアなどの「コロナカスハラ」の実態が明らかになった。
客が従業員への威圧的な言動や理不尽な要求を突きつける「カスタマーハラスメント」(カスハラ)について、約2万7000人の労働者を対象にした実態調査結果が12月3日、発表された。
調査結果からは、「汚い手で触るんじゃねえ!」など、耳を塞ぎたくなるような、数々のハラスメントが明らかに。調査対象者の5人に1人がコロナ関連のカスハラを受けた経験があることがわかった。
産業別労働組合「UAゼンセン」が、流通・小売業・飲食・医療・サービス業などで働く組合員2万6297人を対象に、2020年7月10日〜9月23日の期間、アンケート調査を実施した。
「コロナ禍において、カスハラは増加傾向にある」と結論づけ、早急な法整備の必要性を訴えた。コロナ禍で、精神疾患を発症するなどの深刻な被害を受けていることがわかった。
●直近2年以内で、新型コロナ関連の迷惑行為を受けた人は「5人に1人」
UAゼンセンが12月3日、調査結果を報告した。
「直近2年以内に、迷惑行為(カスハラ)があった」と回答したのは、56.7%(1万5256人)だった。
その迷惑行為がコロナに関係するものだったとしたのは、35.9%(5477人)であり、これは調査対象者全体の20.3%にあたる。
●コロナカスハラに泣いた業種は
コロナの影響によるカスハラは、業種ごとに差が現れた。業種別の「コロナの影響による迷惑行為」を見ると、「ドラッグストア関連」の業種では特に、66.6%(1201件)が「あった」と回答した。「なかった」と回答したのは33.4%(602人)。
次いで、「あった」の割合が多い業種は、「スーパーマーケット」(43.0%)、「GMS=総合スーパー」(40.7%)、「ホテル・レジャー」(35.8%)となる。コロナ禍でも営業を続けていた業種で、大きな被害が目立つ。
●よくカスハラをするのは「圧倒的に中高年以上の男性」だった。
次に、カスハラをしていた顧客の性別・推定年齢をみていく。男性は74.8%、女性は23.4%。年代は10代(0.2%)、20代(2.0%)、30代(8.6%)、40代(18.9%)、50代(30.8%)、60代(28.0%)、70代(11.5%)となる。
調査では、「主に40〜70代の男性がカスハラをする」と結論づけた。
この理由について、UAゼンセンによると、中高年の男性は、いろいろな知識をすでに持っているため、サービスを受けた時に、しつこくクレームをしたり、対応を迫ったりする傾向にあるのだという。
●診療内科に行く人も
カスハラが起きたきっかけは、「接客やサービスのミス」「商品の欠陥」など提供側に問題があるのは34.2%で、「顧客のいやがらせ・勘違い」など客側に問題があるのは48.3%だった。
そのような行為によって、約95%の人が不快と感じたと回答。寝不足が続いたり、実際に心療内科に行ったりした人もいた。
●コロナカスハラの事例
レジで商品をスキャンする際、ペットボトルの上部の蓋の部分を持ったところ、「どこ触ってんだ! 汚い手で触るんじゃねえ!」と怒鳴られた。(ドラッグ)
「遠くから来たのにマスクがない! あなた達は自分の分は確保しているのだろう。何時のトラックで、荷物は来るのか! 隠しているのなら、早く出しなさい!」といつまでも叱責された。(GMS)
一度口に入れた料理をおしぼりに吐き出し、そのおしぼりを下げろと強要し更には「はい、コロナコロナ」と発言。(居酒屋)
酔っているお客様からの申し出に対し謝罪したが、マスクを取って謝れと、マスクを取っているお客様に至近距離で大声を要求された。(居酒屋)
調査結果をテキスト分析すると、クレームには「コロナ」「マスク」が目立った(桐生教授の分析)
2017年の同様の調査のテキスト分析
●対策は不十分
企業がマニュアルの整備や専門部署の設置など、なんらかの対策をしているのは約6割にとどまるという。
そのうえで、UAゼンセンは、コロナ禍でカスハラはさらに増加する可能性があると警鐘を鳴らす。政府による支援策「GoTo」事業によって、店舗での混雑が予想され、密な状態に備えた対策が必要とした。
企業における防止対策の徹底とともに、カスハラ防止のための法整備の必要性もあるとした。
「企業ごとに、対策にはバラつきがあり、企業によって対策できない消費者の行動もある。悪質なクレーマーを規制するような法整備が必要ではないか」
●お客様はもう神様じゃないんだ
犯罪心理学を専門とする東洋大学の桐生正幸教授は、「お客様は神様じゃない。同等の立場であるという社会的理念をそろそろ形成しなければいけない。それがあってはじめて法整備に進むべき」と話した。