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「タトゥーが入ってるらしい」 事実確認なく「すし店」解雇、どんな法的問題がある?
画像はイメージです(shige hattori/PIXTA)

「タトゥーが入ってるらしい」 事実確認なく「すし店」解雇、どんな法的問題がある?

身体にタトゥーがあるという情報で解雇されたのは違法だとして、ホテルニューオータニ(東京都千代田区)に入る高級寿司店に勤務していた男性が今年9月、店を経営する会社を相手取り、損害賠償などをもとめる労働審判を東京地裁に申し立てた。

代理人によると、男性は今年7月28日、「タトゥーが入っているようだ」という情報のみで、事実確認もされないまま解雇された。さらに、会社の寮からもすぐに退去するよう"強要"されたという。

その後、会社側は8月26日、解雇を撤回したが、「身体にタトゥーが入っている間は調理準備の仕事しかできない」と告げられたという。こうした解雇は法的にはどうなのだろうか。中村憲昭弁護士に聞いた。

●「解雇は違法になる」

――「タトゥーが入っている」という情報のみで解雇することは、法的にどう評価されるのでしょうか?

従業員にとって労働は生活の糧ですから、使用者側からの雇用契約の解除(解雇)は、(1)客観的で合理的な理由を欠き、(2)社会通念上相当として是認することのできない場合は、権利を濫用したものとして無効です(労働契約法16条)。

(1)については、解雇事由が就業規則などで明記されていることを前提に、どの解雇事由に該当するのかを明らかにしなければなりませんし、手続きとしても、本人の弁明を聞く機会を与えなければなりません。

今回のケースの場合、タトゥーを入れたことが就業規則上いかなる事由に該当するのかという問題がありますが、そもそも事実確認もないまま解雇されたという点が手続き的に違法です。

――今回のケースでは、就業規則に「タトゥー禁止」が入っていなかったようなのです。もし入っていたら、解雇は違法とならないのでしょうか?

仮に就業規則にそのような規定があったとしても、タトゥーを一律に禁止することが相当かどうか、仮にタトゥーを理由とした措置を講じるとしても、解雇することが社会的相当性を有するかが問題となります。

タトゥーは化粧やヘアスタイルと同じく自己表現の一つであり、業務に支障がないにも関わらずいきなり解雇することは違法となりうると思います。

●目的と手段が合理的な関連をもつか

――憲法で保障された「職業選択の自由」を侵害しているといえないでしょうか?

雇用契約は、雇用主と従業員という私人間の契約なので、ただちに憲法が適用されませんが、懲戒の適法性の判断で憲法の趣旨も勘案されます。

就業規則でタトゥーを規制できるか否かは、規制の目的が正当か、正当であるとして、その目的と規制が合理的な関連をもつか、で判断されます。

飲食店において、清潔感をアピールするために従業員の外見に一定の制限を設けるのは、目的としてはおかしくありません。

タトゥーが個人の自由であるとはいえ、ロン毛(長髪)の人が清潔感という点で寿司屋にそぐわないように、肌を露出する業種に就かせないというのは、現在の風潮から見てもやむをえないのかなと思います。

ただし、手段としての解雇処分は、雇用契約が従業員の生活の糧であることからすれば、過剰と評価される可能性が高いでしょう。たとえば、人前に出ない業務に従事するとか、タトゥーの入った部位を業務従事中は見せないようにするのであれば、店の清潔感は確保できます。

今回のケースでは、タトゥーの部位は判然としませんが、寿司職人を目指した若者の将来が閉ざされないことを期待します。

この記事は、公開日時点の情報や法律に基づいています。

プロフィール

中村 憲昭
中村 憲昭(なかむら のりあき)弁護士 中村憲昭法律事務所
離婚・相続、交通事故など個人事件と、組織が万全でない中小企業を対象に活動する弁護士。裁判員裁判をはじめ刑事事件も多数。その他医療訴訟や建築紛争など専門的知識を要する分野も積極的に扱う。

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