渋谷や吉祥寺などで映画館を展開したり、映画の配給をおこなっている「アップリンク」の元従業員5人が、同社の浅井隆代表から日常的にパワハラを受けていたとして、損害賠償をもとめて提訴した事件。
浅井代表がその後、2度にわたって謝罪声明を出したことをめぐり、原告5人のうち3人が6月22日、都内で記者会見を開いた。原告たちは「浅井氏の姿勢に反省も真摯さも感じ取ることができません」という見解を示した。
原告の浅野百衣さんは「浅井代表やベテランスタッフは、ハラスメント被害の事実や、会社の体質に向き合ってほしい」と涙した。また、錦織可南子さんは「映画という文化の名のもとに人の尊厳が踏みにじられてよいのか」と声を詰まらせた。
●顔出し・名前出しで会見を開いていた
元従業員たちがふたたび記者会見で訴えた――。
原告の元従業員5人は6月16日、代表とアップリンク社など3社を相手取り、損害賠償をもとめる訴訟を東京地裁に起こした。同日、5人のうち4人は、顔出し・名前出しで、記者会見を開いて、パワハラ被害を訴えていた。
提訴を受けて、浅井代表は6月16日、ホームページ上で「元従業員の方々から訴訟を提起されたことに関して、真摯に受け止めております。不適切な言動があったことを深く反省し、謝罪致します。本件の解決に向けて、誠意をもって対応をして参ります」とした。
浅井代表はさらに6月19日、ホームページ上で二度目の謝罪声明を出した。この中で、(1)外部委員会の設置、(2)通報制度・窓口の設置、(3)社内体制の改革・スタッフとの定期的な協議――など、「今後の対応」を示した。
この声明は、ネット上で「誠実だ」などと一定の評価をされていた。
・謝罪と今後の対応
https://www.uplink.co.jp/news/2020/53509
●「ハラスメントの深刻さを自覚していないからだ」
ふたたび会見を開いた原告側は、16日と19日の声明について、謝罪が自分たちになく、世間に向いていたとして、「いったい誰に謝罪したのですか」「私たちの声に耳を傾けることより、形式的な『謝罪』を対外的に示すことを優先させたものでしかありません」と指摘した。
浅井氏が19日に発表した「今後の対応」のほとんどの内容は、原告側から、当事者間の協議として提案していたもので、「一方的に声明というかたちで公表したのは、浅井氏の発案と誤認させるもので、私たちの提案に対する重大な裏切りでもあります」と批判した。
さらに、声明の内容についても、「ここ2年間の問題にのみ限定することによって、ハラスメントの原因を事業拡大に伴う経営体制の問題に矮小化しています」「注意・叱責という表現を使っているのは、ハラスメントの深刻さを自覚していないからだと言わざるを得ません」とした。
原告側はあらためて、次のようなことを浅井氏とアップリンク側にもとめている。
(1)浅井氏およびアップリンクは原告側に対してまず謝罪をおこなうこと
(2)浅井氏およびアップリンクは原告側に対して賠償をおこなうこと
(3)浅井氏だけが株主という現状を改め、株主が複数となるようにすること。一部は従業員による持株会の保有とすること
(4)取締役会を設置し、一部の取締役は社外の者とすること
(5)労働者と定期的に協議する機会を確保すること
(6)取締役会から独立したアドバイザリーボード(第三者委員会)を設置し、職場環境やコンプライアンス、過去のハラスメントなどについて調査・提言をおこなう権限を与え、取締役会は提言を遵守すること