厚生労働省は1月22日、直近のインフルエンザ発生状況を発表した。それによれば、1月11日~17日の全国の定点当たりの報告数は、4.11ポイントと前週(1月4日~10日)から倍増している。推計患者数も前週から10万人増えて、約23万人となった。いよいよ、季節性インフルエンザの本格的な流行が始まったようだ。
発症した場合、学校や仕事を休む人が多いだろうが、インフルエンザにかかっていても、なかなか休めない人もいる。弁護士ドットコムの法律相談コーナーでも「インフルエンザに罹患し会社へ報告しましたが、『今忙しい時期なので可能であれば、明日も出社して欲しい』と上司から言われました」との相談が寄せられている。
相談者は、学校保健安全法に「通学停止」についての規定があることを指摘したうえで、「社会人に対しての明確な法律はないようですが、これはパワハラにあたりますか?」とたずねている。「可能であれば」という上司の物言いは柔らかく聞こえるが、部下としては休みづらいだろう。
インフルエンザを発症した部下に「出社して欲しい」と言うことは、パワハラにあたるのだろうか。木村純一郎弁護士に聞いた。
●企業には「健康配慮義務」がある
「企業は、従業員の生命・身体等の安全を確保しつつ労働することができるよう必要な配慮をすべき義務(『健康配慮義務』とも呼ばれます)を負っています(労働契約法5条)。
そのため、企業の出社命令は無制限に認められるものではなく、対象従業員のみならず職場全体に対する『健康配慮義務』に基づく制約を受けます。したがって、従業員の『出社拒否』が認められる場合もあると解されます。
そもような場合に出社を命令することは、違法なパワハラに当たり得ます」
インフルエンザを発症している社員への出社命令はどうだろうか?
「まず、新型インフルエンザの場合は、労働安全衛生法68条の定める就業禁止の対象ではありませんが、感染症法18条の定める就業制限の対象です。
そのため、出社を命令することは感染防止策を怠ったものと評価され得るため、違法なパワハラに当たる恐れが強いと思われます。
他方、季節性のインフルエンザの場合は、感染症法上の就業制限の対象ではありませんが、感染力が比較的強く、重症化すれば身体の健康を害する危険があるとともに、他の従業員への感染予防の必要性も高いことは軽視できません。
そこで、企業の繁忙の程度や出社命令の態様(しつこさや雰囲気)、対象従業員の症状の程度、感染予防策の有無や内容によっては、出社を命令することが違法なパワハラに当たる恐れがあると思われます」
木村弁護士はこのように指摘した。