「おいしい料理でゲストをもてなせる」ということで人気のレストランウェディング。しかし、おめでたい式の裏側では、とんでもない「パワハラ」が行われていた。東京都内のレストランウェディングの厨房で働く派遣社員のカナコさん(26)が、その様子を語った。
「私が働いている式場のシェフはセンスが抜群で、いつも素敵な料理をお客様にお出ししています。ところが、ものすごく口が悪くて・・・。働き始めて間もない若い弟子を『おい、そこのサル!』と呼んだり、ちょっとでも失敗すると『本当に使えねえな』とか、『お前臭いから、そこにいないでくれる?』と暴言を浴びせまくるんです。
暴言だけではなく、暴力もふるっているようです。現場は目撃していないんですが、シェフが弟子を怒鳴り散らした後に『パシーン!』と、平手打ちしたような音が聞こえました」
カナコさんは「お弟子さんがかわいそうだし、私としても、そんな職場で働くのは辛い」と語る。どこかに通報すべきと思うが、「派遣の私が口出ししていいのかなという思いがあります。料理人のような職人の世界は、こういう厳しさがあって当たり前なのかもしれないし・・・」と躊躇しているようだ。
カナコさんのように、派遣先の職場でパワハラを目撃し、その状況を改善したいと思った場合、どのように対処すべきなのだろう。また、その際、パワハラの証拠として、どのようなものを用意しておくべきなのか。石崎冬貴弁護士に聞いた。
●「弟子の指導のためなら何をしてもよい」というのは時代錯誤
「労使紛争の現場をみていると、必ずしも飲食業界だからといって、パワハラが多いとは思いません。ただ、料理人に限らず、いわゆる『職人さん』の世界は、個々人のこだわりが大きく出ますので、その意味で、お互いの信念が強くぶつかり合う機会は多いかもしれませんね。それでも、弟子の『指導』のためなら師匠は何をしてもよいというのは、時代錯誤です」
石崎弁護士はこのように指摘する。
「派遣先でパワハラを目撃した場合、派遣社員という立場上、なかなか口を出しにくい場合もあると思います。しかし、パワハラはエスカレートすることもありますし、何とかしたいという気持ちもありますよね。
派遣社員としては、パワハラが行われている職場環境では自分も働きにくい、ということで、派遣元に報告するという方法がありえます。ただ、今回は自分自身が被害者ではありませんし、派遣元にとって派遣先は取引先ですから、あまり強く言えない場合もあるかもしれません」
では、どうすればいいのだろうか。
「そのような場合は、パワハラ被害者の話をよく聞いてあげて、被害者から協力を求められれば、現場を目撃した証人ということで、一緒に、派遣先の上司などに相談してもよいと思います。
パワハラの証拠として、暴言をボイスレコーダーで録音するのもよいですが、なにより、実際に目撃した方の声というのは、ずっとリアリティがあるものです。また、暴言でうつ病になったり、殴られて怪我をしたといった場合には、診断書を取っておく必要もあるでしょう。
それでも派遣先が何の手段も講じない場合は、労働基準監督署など、外部の機関に相談することになります」