「売れなかったら、買い取ってね」。学生時代にコンビニでアルバイトをしていたNさんは、毎年土用の丑の日が近づくと、オーナーから課せられていた過酷な「ノルマ」を思い出し、暗い気分になるという。
Nさんが働いていたコンビニでは、土用の丑の日が近づくと、1個1000円のうな重弁当を大量に仕入れていた。オーナーは、シフトにはいるアルバイトに対して「ひとり5個」というノルマを課し、達成できない場合には買い取りを命じていたという。
いくら土用の丑の日といっても、うな重弁当は他の弁当に比べて割り高だ。Nさんの店でも、そうそう売り切れになるようなことはなく、ノルマを達成できずに自腹で買い取ることが少なくなかった。Nさんは「うなぎはあまり好きではなかったので、当時はつらかったです」と語る。
Nさんは、社会人になったいまでは、あの「ノルマ」は問題だったのではないかと考えている。商品が売れなかったからといって、コンビニのオーナーが、アルバイトに自腹買取りのペナルティを課すことは、法的に問題ないのだろうか。労働問題に詳しい今泉義竜弁護士に聞いた。
●業務命令権の濫用・逸脱になる
「本件のように、商品の売り上げノルマを課したうえ、売れ残った商品を労働者に自腹で買い取らせる営業手法は『自爆営業』と呼ばれています。
郵便局員による年賀はがきの買い取りがよく知られているところですが、保険会社やコンビニでも同様の『自爆営業』が横行している問題は、以前より指摘されています」
今泉弁護士はこう話す。どんな問題があるのだろうか。
「売上げのノルマを課すということ自体は、一般的には業務命令の範囲として許されます。
しかし、労働者に強制的に商品を買い取らせる『自爆営業』までを命じることは、業務命令権の濫用・逸脱であり、違法です。
また『自爆営業』は、支払われた賃金の一部で会社の商品を購入させるということと、実質的には同じです。
賃金の全額払い原則(労働基準法24条)の趣旨に反しますし、悪質な場合は、強要罪(刑法223条)に当たることもあります」
買い取りを命じられても、従う必要はないということだろうか。
「はい。このような違法な業務命令には従う必要はありません。
意思に反してむりやり商品を購入させられてしまった場合でも、その売買契約自体の無効・取消を主張して、代金を返還するよう求めることができます。
また、そのような自爆営業を強要した悪質なオーナーに対して、不法行為に基づく損害賠償を請求することも考えられます」
今泉弁護士はこのように述べていた。