歯科医院の経営者として、女性スタッフに対する「患者のセクハラ」に、どう向き合えば良いか――。弁護士ドットコムの法律相談コーナーに、そんな悩みが寄せられている。
相談者によると、その歯科医院では、70代の男性患者が、女性スタッフの下半身を触ったり、抱きつこうとしたり、指をなめたり吸ったりしたという。さらに、携帯電話の番号を渡して「電話して」といったという。
この歯科医院を経営する歯科医は、患者を「出入り禁止」にしたり、「診療拒否」したりできるのだろうかと悩んでいる。また、被害にあった女性スタッフが、患者に対して慰謝料を請求できるかどうかも知りたいそうだ。医療問題にくわしい鈴木沙良夢弁護士に聞いた。
●診療拒否するには「正当な理由」が必要
「歯科医師は、診察治療を求められたときは正当な理由がある場合でなければ拒むことができないとされています。
このことは『応召義務』と呼ばれ、歯科医師法19条で定められています。医師の場合も同様で、医師法19条に規定があります」
なぜ、歯科医師や医師には、そんな義務があるのだろうか。
「それは、歯科医師・医師が、国の免許制度によって、その職務を独占しているからです。仮に、歯科医が、正当な理由がないにもかかわらず診療を断った場合には、患者側から損害賠償を求められたり、行政処分の対象となることがあります」
●セクハラは診療拒否の「正当な理由」になる
今回のような「セクハラ」は、診療拒否できる「正当な理由」と言えるのだろうか?
「この『正当な理由』については、現在、かなり限定的に考えられており、ケースごとに慎重に検討する必要があります。
今回は、女性スタッフの下半身を触るという行為をしていますね。これは迷惑防止条例違反等の犯罪に当たります。
応召義務も、犯罪を我慢してまで受けなければならないというものではありません。ですから、この場合は、正当な理由があるとして、診療を拒否できると考えられます」
そうやって「診療拒否」する際に、医師側が注意すべき点は?
「後日、診療の拒否に『正当な理由があった』と明らかにできるよう、患者本人に警告書を渡して、態度の改善を促しておくことを勧めます。また、患者の行為が目に余る場合には、警察を呼ぶことも考えてください。
なお、女性スタッフが、セクハラ行為をした人に対して、慰謝料の請求をすることは可能です。ただし、その場合は、男性患者の行為や故意を、自分で証明する必要があります」
診療拒否にしても、慰謝料請求にしても「証拠」が重要となりそうだ。トラブルを大きくしないためにも、まずはしっかりと被害を記録することが大事だろう。