国際労働機関(ILO)が、労働環境整備のため定めた「ILO条約」全189条約(無効となった5条約を含む)について、日本の批准数が少ないと話題になっている。
1月16日付の東京新聞によると、日本の批准数は49条約で、経済協力開発機構(OECD)加盟国平均の74条約を下回っているという。中でも、建設・運輸なども含んだ工業的企業で働く人の労働時間を「1日8時間かつ1週48時間に制限」した1号条約など、労働時間に関する条約には、1つも批准していないそうだ。
一体、どうして日本は批准していないのだろうか。そもそも批准すべきなのだろうか。作花知志弁護士に聞いた。
●国内法との齟齬が問題
「ILO条約の内容と、日本の国内法の内容に齟齬があることが、日本が批准できない理由となります。
たとえば、ILO1号条約(1日8時間・週48時間制)について見ますと、日本では1947年に労働基準法が制定され、1日8時間、1週48時間の8時間労働制度が規定されました。週の労働時間は、1987年の改正で40時間に短縮されています。
ここだけだと1号条約と合致しているように見えますが、労働基準法では使用者が労働組合などと時間外労働協定(36協定)を結んで労基署に届け出れば、時間外および休日の労働が適法とされます。この部分がネックで、日本はILO1号条約を批准できないままの状態が続いているのです。
このほか、批准していない条約の代表例として、次のものがあります。
・47号(週40時間制)・132号(最低2週間以上の連続した年次有給休暇)・140号(有給教育休暇)」
●先進国でも批准していない国は多い
一方で、作花弁護士は「もちろんILO条約も万能の存在ではなく、世界中のすべての国が参加しているわけではありません」とも語る。
批准が少ないことを理由に、「日本は遅れている」とする意見もあるが、たとえば、1号や47号条約については、アメリカやイギリス、ドイツといった国々も批准していないからだ。
「国際社会は、個々の国が主権に基づき、自らを『拘束』する条約に参加することで、法秩序が創造されていきます。条約を批准するかどうかは、国家としての判断ですので、批准していないことをもって、当然に『遅れている』と評価できるわけではありません。
ただ、ILO条約が多くの国で支持されているのは、それが、いわゆる労働基準についてのインターナショナル・スタンダードを定めている存在として、国際社会で認識・信頼されているからです。
それは、『世界中のいかなる国にいても、同じ人権が保障されるべきである』という国際人権条約の理念に通じるものです。そして国際組織としてのILOは、総会に条約加盟国の政府代表だけでなく、使用者の代表や、労働者の代表も参加することにより、その世界基準としての役割をより実効的なものとしようとしています」
では、日本は今後、ILO条約とどう付き合っていくべきなのか。
「もちろん批准するかどうかは主権国としての日本の判断ではあります。ですが、ILO条約の理念をより普遍的なものとして実現するためにも、先進国の日本としては、国内法をそのインターナショナル・スタンダードとしてのILO条約の内容に適合させるように積極的に法改正をし、ILO条約を積極的に批准するという姿勢が求められているように思います」