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強制わいせつの被告人を「匿名」で審理、「裁判公開の原則」に反するのでは?
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強制わいせつの被告人を「匿名」で審理、「裁判公開の原則」に反するのでは?

強姦、強制わいせつなどの罪に問われた男性の初公判が1月10日、青森地裁であり、被害者の特定を避けるため、被告人も匿名で審理された。報道によると、被告人の名前などは、男性が氏名や生年月日などをあらかじめ書いた紙をもとに確認されたという。

被告人は2016年5月に当時13歳の少女(実兄の長女)が18歳未満だと知りながら、みだらな行為をしたとされる。また、2013年には交際相手の10代の子どもに乱暴し、2014年には同じ交際相手の別の10代の子どもにわいせつな行為をしたとされている。男性は「事実ではない」などとして、いずれも無罪を主張したという。

被害者だけではなく、被告人も匿名で裁判を行うことには、どのような意味があるのか。萩原猛弁護士に聞いた。

●憲法は「裁判公開の原則」を保障している

憲法は、第82条1項で「裁判の対審及び判決は、公開法廷でこれを行ふ。」と定めると共に、第37条1項で「すべて刑事事件においては、被告人は、公平な裁判所の迅速な公開裁判を受ける権利を有する。」と規定しています。

つまり、我が国の憲法は、刑事裁判が公開法廷で行われることを制度的に保障すると共に、被告人の基本的人権としても「公開裁判を受ける権利」を保障しているのです。

さらに、表現の自由(憲法21条1項)から導かれる「知る権利」を根拠に、国民には、裁判を傍聴する権利があると考えられています。密室での裁判は、国家権力の濫用を招きます。それゆえ、裁判を公開して国民の監視のもとに置くことが重要とされているのです。

最高裁は、裁判公開原則の意義を「裁判を一般に公開して裁判が公正に行われることを制度として保障し、ひいては裁判に対する国民の信頼を確保しようとするところにある」としています(最判平成元年3月8日)。

●匿名が認められるためには、合理的な理由が必要

被害者や被告人の氏名を匿名として公開しないことは、以上に述べた「裁判公開原則」や国民の「知る権利」に抵触することになります。したがって、匿名が認められるためには、合理的な理由が必要です。

刑事訴訟法は、性犯罪などの事案において、被害者などの申出によって、裁判所がその事件の被害者を特定させることになる事項(被害者特定事項)を公開の法廷で明らかにしないことを決定できる制度を設けています(刑事訴訟法290条の2)。

被告人と被害者が特別な関係にある等、「被告人名」が明らかになることによって被害者も特定されるといった場合には、「被告人名」が「被害者特定事項」となる余地はあるでしょう。今回のケースのように「被害者名」だけではなく「被告人名」も秘匿されることは、「被害者特定事項」を秘匿することの一環としてあり得ることと考えられます。

しかし、「裁判公開原則」は、先に述べたように、憲法上の要請であり、裁判の公正を確保すると共に、国民の知る権利に基づくものです。安易に「被害者特定事項」を認めて秘匿の範囲を拡大するのは問題です。秘匿の範囲は被害者への二次被害の防止などの観点から必要やむを得ない範囲に限ることが肝要でしょう。

(弁護士ドットコムニュース)

プロフィール

萩原 猛
萩原 猛(はぎわら たけし)弁護士 ロード法律事務所
埼玉県・東京都を中心に、刑事弁護を中心に弁護活動を行う。いっぽうで、交通事故・医療過誤等の人身傷害損害賠償請求事件をはじめ、男女関係・名誉毀損等に起因する慰謝料請求事件や、欠陥住宅訴訟など様々な損害賠償請求事件も扱う。

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