NHK会長が「よくある」という「辞表預かり」 一般企業で辞表提出させたら違法?

2014年03月01日 17時13分
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NHKの籾井勝人(もみい・かつと)会長が理事たちから辞表を取り付けていたことが発覚し、大きな問題になっている。2月26日には衆議院予算委員会でも取り上げられたが、籾井会長が「一般社会ではよくあること」と発言したことから、さらに波紋が広がっている。

この「辞表預かり問題」は、2月25日の衆議院総務委員会でクローズアップされた。参考人として招かれたNHKの理事10人全員が辞表の提出を認め、世間を驚かせた。籾井会長は1月下旬に就任した際、理事全員に日付欄を空白にした辞表を提出させていたのだという。理事の任期満了前でも罷免できるようにし、会長の人事権を強める狙いがあるとみられている。

一方、籾井会長は「辞表を預かったことで、(理事が)萎縮するとは思っていない。一般社会ではよくあること」と衆議院予算委員会で答え、問題はないとの認識を示している。だが、民間の会社で、社長が従業員や役員の辞表を預かり、好きなタイミングで利用するなどということが、本当に可能なのだろうか。労働問題にくわしい波多野進弁護士に聞いた。

●「いつでも好きなときにクビ」は認められない

「もし社長が、特段の理由もないのに、日付のない辞表、すなわち退職届を提出させて預かり、いつでも利用できるなら、それは『社長が好きなときに従業員をクビにできる』ということにほかなりません。しかし、実際には社長の思惑通りにはいきません」

このように波多野弁護士は、きっぱりと言う。

「そもそも『解雇』は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合には、権利の濫用として『無効』となります(労働契約法第16条)。これは、それまでに最高裁が示した判例である『解雇権濫用の法理』を条文化したもので、それだけの重みがある内容です。

もし社長が、事前に従業員から集めておいた退職届を利用して、その社員が退職した扱いにしたとしても、解雇に合理性や相当性がなければ無効になると言うべきでしょう」

波多野弁護士によると、そんな形で提出させられた退職届は、それ自体が無効とされる可能性もあるようだ。

「社長と従業員個人の力関係では、圧倒的に社長が強いのは、言うまでもありません。

社長から『日付ブランクの退職届を提出しろ』と告げられれば、それが要請であっても、実質的には命令といえ、従業員はそうそう拒否できるものではありません。

また、社長がこのような退職届を出させる意図も、従業員が出す意図も、『いつでもクビにする(なる)』というものではなく、従業員が地位・立場をかけて職務遂行することを決意表明させる(する)程度のものでしょうから、本当に従業員の地位を失わせる解雇・退職の手段に使うことは、社長も従業員も予定していないはずです。

したがって、そのような退職届は、従業員の意思(真意)に基づかないものとして、無効となる可能性もあると考えます」

●役員レベルでは「違う問題」が生じる

では、従業員ではなく、取締役など役員レベルの話ならどうだろうか? NHKの場合も、問題となっているのは、役員である「理事」の辞表提出だ。

「代表取締役が、各取締役に辞表を提出させることも、大いに問題ありです。

なぜなら、会社法で定められた取締役の重要な責務の一つに、代表取締役の業務執行を監督することがあるからです。そのような監督義務にもとづき、取締役会は、決議によって代表取締役を解職することもできます。

にもかかわらず、監督される対象の代表取締役が、取締役の辞表を預かり、いつでも取締役の地位を失わせることができる……というのはおかしな話です。

そのような代表取締役の行為は、相当性を欠くと言わざるを得ないでしょう」

波多野弁護士はこのように話していた。

ちなみに、籾井会長はNHKの出身者ではなく、三井物産や日本ユニシスといった民間企業を経験して、今年からNHKの会長に就いた人物だ。「一般社会ではよくあること」という籾井会長だが、かつての所属企業では、従業員や役員が「辞表」を経営トップに預けることが、当たり前に行われているのだろうか・・・。

(弁護士ドットコムニュース)

取材協力弁護士

波多野 進弁護士

波多野 進(はたの・すすむ)弁護士

弁護士登録以来10年以上、過労死・過労自殺(自死)・労災事故事件(労災・労災民事賠償)や解雇や残業代にまつわる事件に数多く取り組んできている。

事務所名:同心法律事務所

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