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「プロポーズを考えている」彼を信じたら独身偽装だった…裁判で「110万円」勝訴でも終わらない“被害”
「独身偽装」の被害について話す女性(撮影:渋井哲也)

「プロポーズを考えている」彼を信じたら独身偽装だった…裁判で「110万円」勝訴でも終わらない“被害”

マッチングアプリで出会い、交際した男性が実は既婚者だった──。

女性は男性を「独身」だと信じて約10カ月にわたり交際した。男性は何度確認しても既婚者であることを否定し、「プロポーズを考えている」とまで口にしていたという。

既婚者だと判明した後、女性は男性を提訴。男性側が裁判に出廷しなかったこともあり、裁判所は貞操権の侵害を認め、110万円の賠償を命じた。

しかし、勝訴しても終わりではない。

判決が出たからといって、裁判所が自動的に賠償金を回収してくれるわけではない。男性が自主的に支払わなければ、女性自身が財産を探し、差し押さえるための手続きを進めなければならない。

女性は今、「逃げ得」を許さないため、強制執行も視野に入れている。(ライター・渋井哲也)

●「真剣に彼女募集」と書かれたプロフィール

「今思えば、おかしいところはありました。でも、まさか結婚しているとは思わなかった」

女性がマッチングアプリを使い始めたのは、もともと婚活が主な目的ではなかった。変わった料理を食べるなど、趣味の合う友人を探すためだったという。

SNSでは行きつけの店などに一緒に行く友人、マッチングアプリでは知らない店を開拓する友人を探すなど、使い分けていた。

そんな中、2025年1月ごろ、マッチングアプリで30代の男性と知り合った。当時37歳だった女性は、服装の趣味などが合いそうだと感じた。

男性のプロフィールには「真剣に彼女募集」と書かれていた。

「私は動物好きで、音楽が趣味です。それらが合いそうだなと思いました。そのとき、彼氏もいませんでしたし、仲良くなりたいと思ったんです。『真剣に彼女募集』とありましたので、少なくとも、そのとき彼にも彼女はいないと思いました。結婚もしていないだろうと……。特に不審な点もありませんでした」

プロフィール写真は、美容院で撮影したような写真やトリミングされた写真が中心で、女性とのツーショットなどはなかったという。

その後、電話で話すようになると、男性は「10年くらい彼女がおらず、彼女という存在に興味がなかったが、職場の人にすすめられた」と説明した。

●2カ月のやりとりを経て交際へ

やりとりは約2カ月続いた。男性は東北地方に住んでいると話し、電話では東北弁を使っていた。雪景色や、土偶をモチーフにした交番の写真なども送ってきた。

LINEのIDも交換し、2月に入ってもやりとりは続いた。夜遅くでも返信があり、女性が不審に感じるようなことはなかったという。

「このころ、お互いに『気になるよね』というやりとりをしていました」

3月、男性が仕事で関東に出張した際、2人は初めて対面し、交際が始まった。男性は現場作業員として働いていると説明していた。

関東への出張は2~3週間に及び、その間、女性は毎週末、男性が会社から借りていた住居を訪れた。金曜日の夜から日曜日まで一緒に過ごし、食事をしたり、出かけたり、泊まったりした。

●左手の薬指にシルバーの指輪?

男性は会社支給と私用の2台のスマートフォンを持ち、女性とはどちらの端末でもLINEをしていた。

2人でいるときに電話がかかってくることもあったが、男性は隠す様子もなく普通に話していた。女性は仕事関係の電話だと思っていた。

「怪しい持ち物もなかった。本当に普通でした」

ただ、一つだけ気になるものがあった。

男性の左手の薬指には、シルバーの指輪がはめられていた。

女性自身もシルバーアクセサリーが好きだったことから、指輪について尋ねた。すると男性は「若いころに買ったハンドメイドの指輪で、外れない」と説明した。

●指輪を切断した→「結婚指輪ではない」

女性には、過去に友人が「独身」と偽っていた男性と交際し、相手の妻から責められたという話を聞いた経験があった。

だからこそ、少しでも気になることがあれば確認した。

「『結婚してないよね?』と聞いたんです。彼は既婚者であることを否定しました。『左薬指にあるのが嫌だ』とも伝えました。すると彼は指輪を切断しました」

わざわざ指輪を切断した──。それも女性にとって、「結婚指輪ではない」と信じる材料になった。

●「プロポーズを考えている」

4月ごろ、男性から「プロポーズを考えている」と連絡があった。

「一緒にはいたいとは思いますが、『早くない?』と伝えました。すると彼は『そうかな。そうだよね』と言っていました」

結婚を持ち出す男性が、すでに結婚しているとは思わなかった。

それでも7月ごろ、女性はあらためて男性に将来について尋ねた。「結婚を匂わせてくるけど、なんなのか」と疑問を感じたからだ。

「本当に将来を考えているのであれば、そのままでもいい。違うのであれば、別れて、他の人との結婚を考えたい。婚活パーティーにも行き、新たに出会いたい」

女性がそう伝えると、男性は今後の人生設計について語り、交際を続けることを選んだ。女性は「本当に既婚者なら、ここで離れるのではないか」と考えたという。

「罪悪感があったら離れられるじゃないですかね。だから、離れないということを選んだのなら、潔白なんだと思っていました」

交際はその後も続いた。

●突然「LINEを乗っ取られた」

事態が動いたのは9月だった。

男性が出張で関東に来ていたとき、駅で男性の同僚と偶然出会った。

「職場の人でしたが、全然焦っている様子はありませんでした。『僕の彼女です』とは言わなかったですが、ドギマギはしていませんでした。『その人、誰?』とも聞かれませんでした。もし既婚者なら慌てるんじゃないかと思うんですが…」

ところが、男性の私用スマートフォンのLINEから無言電話がかかってきた。

その約25分後、今度は男性本人から着信があった。

「とにかく今は何も聞かず、プライベート用のLINEをブロックしてほしい」

突然、そう求められた。いったい何があったのか。

翌日、男性は「LINEを乗っ取られた」と説明した。その理由は、「副業先のバーの女性客とトラブルになり、その夫にLINEを乗っ取られた」というものだった。

女性は当初、その説明を信じた。

しかし、自分のLINEのブロックリストを確認すると、見覚えのない「A」というアカウントがあった。男性のアカウントとLINEのBGMが同じだったため、不審に思ったという。

さらに、「A」という名前には心当たりがあった。男性から送られてきたTikTokアカウントのフォロワーにも、同じ名前の人物がいたのだ。

女性が「『A』って誰?」と尋ねると、男性は「妹」と説明した。しかし、女性が納得できるような説明はなかった。

そこで女性は、直接「A」に連絡した。返ってきたのは、思いもしなかった言葉だった。

「あなたは人の旦那とデートするんですね」

ここで初めて、女性は男性が既婚者だったと確信した。

●最後の電話で「結婚してた」

女性が男性に「既婚者ではないか」と問いただしても、男性はすぐには認めなかった。

むしろ「『A』をなぜブロック、削除しないのか」と女性を責めたという。

しかし、その後の最後の電話で、男性はついに既婚者だったことを認めた。

男性:いま、●●が風呂に入っているから、その間だけ話せる。
女性:あなたの口から、既婚か、そうじゃないかと聞きたい。

男性:どっちだったらいいの?
女性:そうじゃなく、早く言って。

男性:結婚してた。でも、すぐに離婚しようと思っていた。それに最初に会ったときに既婚者だと伝えた。それでも付き合いたいと言ったのはお前だろ。

女性によると、男性はそれまでとは異なる説明を始めた。

女性が「訴えます」と告げると、男性は「30万円なら分割で渡すから、連絡先を削除してほしい」と申し出たという。女性は拒否した。

「示談金の話は彼のほうから言ってきました。『30万円』というのは、どこからきた数字なのかわかりません」

●裁判所が「貞操権侵害」を認める

女性は男性を提訴した。しかし、男性は裁判に出廷しなかった。2026年9月、裁判所は男性による貞操権侵害を認め、110万円の支払いを命じた。

「のらりくらりかわしていたけれど、お前のやったことは司法に認めてもらえたんだぞ、というのを身をもってわからせたかった」

女性にとって、これは単なる男女間のトラブルではなかった。

相手が独身だと信じ、何度も確認し、将来についても話し合ったうえで交際を続けていた。その時間を失っただけでなく、「人と親しくなること」そのものへの警戒心が強くなったという。

「絶対にこの人は私をだます、というふうに接するわけではないですが、踏み込まれないように、踏み込まないようにしています」

約10カ月の交際の末に残ったのは、喪失感だけではなかった。

「人を信じる」ということそのものに、慎重にならざるを得なくなった。

●勝訴しても「自動的には払ってもらえない」

そして、もう一つ問題が残っている。

110万円の賠償を命じる判決が出ても、男性が自主的に支払うとは限らない。

過去に独身偽装をめぐる裁判を担当したことがある猪野亨弁護士は「判決を得ても、国や裁判所が自動的に賠償金を回収してくれる制度ではない」と説明する。

支払いがなければ、原告である女性自身が債権者として、強制執行の手続きを進める必要がある。

「相手が会社員であれば、勤務先を特定して給与を差し押さえる方法が考えられます。ただし、勤務先の調査は債権者側でおこなう必要があります。

弁護士に依頼すれば、弁護士会照会などを通じて銀行口座の有無を確認できる場合がありますし、取引履歴を確認できるケースもあります。

もし判決確定後に資金が移動されていれば、財産隠匿の疑いを検討する材料になり得ます。

逃げ回っても相手方の財産を特定できる可能性があります。逃げ得を許してはいけません。執行できる財産が見つからない場合には、裁判所を通じた財産開示制度もあります」

勝訴判決を得ることと、実際に賠償金を受け取ることは別の問題だ。

女性は今、判決を「紙切れ」で終わらせないため、その先の手続きを進めようとしている。

この記事は、公開日時点の情報や法律に基づいています。

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