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「歴史的事実が否定された」京大タテカン裁判、最高裁で敗訴…刑法学者・高山佳奈子教授が訴える司法の危機
一審判決後の集会で発言する高山佳奈子教授(2025年6月/撮影:田中圭太郎)

「歴史的事実が否定された」京大タテカン裁判、最高裁で敗訴…刑法学者・高山佳奈子教授が訴える司法の危機

<最高裁判所は、京大法人と京都市を相手どったタテカン裁判にかかる京都大学職員組合の上告および上告受理申立を、2026年9月9日付でいずれも棄却しました。これは極めて不当な判断であり、私たちは強く抗議します>

こう声明を出したのは、京都大の教職員らでつくる京都大学職員組合だ。

大学キャンパス内の立て看板(通称「タテカン」)が2018年5月に一斉撤去されたことをめぐり、職員組合は2021年4月、大学と京都市を提訴した。

一審の京都地裁、控訴審の大阪高裁はいずれも職員組合の訴えを退けた。職員組合側は最高裁に上告するとともに、上告受理を申し立てたが、最高裁は9月9日付で退けた。

職員組合側は、長年設置してきた組合のタテカンを一方的に撤去したのは違法で、憲法が保障する「表現の自由」を侵害するなどと主張。大学と京都市に連帯して慰謝料300万円を、さらに大学に220万円を支払うよう求めていた。

しかし、請求はすべて退けられた。職員組合副委員長の高山佳奈子教授(法学研究科・刑法)は、一連の判決について「裁判所は憲法判断を避けるために嘘の事実認定をしている」と厳しく批判する。

最高裁の決定をどう受け止めたのか。一連の裁判の問題点について、高山教授に改めて聞いた。(ジャーナリスト・田中圭太郎)

●憲法上の論点が「まったく扱われなかった」

一審の京都地裁は、職員組合にタテカンを設置する権利は認められず、タテカン設置をめぐる労使慣行も成立していないなどとして、請求を棄却した。

控訴審で職員組合側は、表現の自由の侵害や組合に対する不当労働行為、適切な手続きを経ないまま撤去したことの違法性などを主張したが、大阪高裁は一審判決を維持した。

そして今回、最高裁が職員組合側の上告を棄却するなどしたことで、高裁判決が確定した。

一連の裁判について、高山教授は「憲法に関する論点が裁判所に消された」と総括する。

「この裁判は労働者の権利や、学生さんも含めた表現の自由の問題など、憲法上の論点が取り上げられるものだと、関心を持ってくださった方も理解されていたと思います。

ところが、一審から最高裁に至るまで、憲法に関する問題がまったく扱われずに終わりました。憲法上の論点自体が、裁判所によって消されてしまったのです」

画像タイトル 京都大学(2026年7月/撮影:田中圭太郎)

●事実と異なる認定に「司法制度が壊されている」

職員組合のタテカン設置をめぐっては、2020年の大学側との団体交渉で、当時の担当理事がタテカンの設置について労使慣行が存在していたとの認識を示していた。職員組合側によると、大学側もこの点自体は争っていなかったという。

また、控訴審で職員組合側は、学部長や副学長を歴任し、2008年まで総長をつとめた尾池和夫氏の陳述書を提出した。尾池氏は陳述書で「総長の立場でタテカンの掲出を認めていた」とし、職員組合側は証人尋問も申請した。

しかし、大阪高裁は証人申請を却下。判決では、尾池氏の陳述を「個人的な感想」にすぎないとして、タテカンが「労使慣行に基づくものとして大学に容認されていたとは認められない」と判断した。

こうした判断について、高山教授は次のように批判する。

「わかりやすく言うと、憲法判断を避けるために、裁判所が嘘の事実認定をおこなったということです。それに尽きるのではないでしょうか。

教職員や学生らがタテカンを設置してきたことは、学外の一般の方々にも広く知られている歴史的な事実ですので、そこを中心に争ってきたわけではありません。まさかその事実を、まったく事実と反する形で裁判所が認定して、結論が出されるとは思っていませんでした。

事実と違うことを認定するのは、憲法32条で保障されている『裁判を受ける権利』に違反する事態が起きたのだと思います。司法制度が壊されているという恐ろしさを感じました」

画像タイトル 2020年6月に京都大学職員組合が設置したタテカン(京都大学職員組合提供)

●「民事裁判の基本原則も否定されている」

タテカン撤去をめぐり、大学側は京都市から屋外広告物条例に抵触するとの指導を受けたことなどを理由としていた。

一方、職員組合側によると、条例に抵触しない場所に設置した看板も、わずか3時間後に大学側によって撤去されたという。

職員組合は大学だけでなく京都市も提訴し、タテカン撤去をめぐる市の対応についても違法性を主張してきた。

しかし、高山教授は、職員組合側の主張のうち京都市が明確に争っていない部分もあったにもかかわらず、結果として請求が全面的に退けられた点にも問題があると指摘する。

「民事裁判は刑事裁判とは異なり、被告が黙っていると原告が言った通りに認められるのが原則です。京都市はほとんど何も主張していません。

京都市が争っていないことについては、原告が言った通りに裁判所は認定しなければならないのに、その原則も破られています。民事裁判の基本原則が完全に否定されました。

これは裁判官たちが司法制度を壊した事案だと思います」

●裁判所の判断で「タテカン文化」はなかったことに

最高裁の決定によって、職員組合側の敗訴が確定した。

それでも、法学の研究者でもある高山教授は、裁判所の審理や判断そのものに強い危機感を抱き、職員組合として声明を出すことにしたという。

声明は裁判所の判断を「結論ありきの暴挙」と批判し、次のように結んでいる。

<現在の日本の裁判所で、このように違法かつ不当な対応が行われているとは、一般市民には到底信じられないことでしょう。しかし、私たちは事実を告発します。

これまで支援してくださった方々には、改めて感謝の気持ちと、私たちの力が至らなかったことにお詫びを表現するとともに、私たちが裁判制度にのっとった正当な闘争を行なってきたことにご理解をお願いいたします>

高山教授は、今回の問題をタテカンだけの問題とは捉えていない。

タテカンが一斉撤去された時期には、大学側が吉田寮の寮生に退去を求める問題も起きていた。

さらに高山教授は、今年6月の総長選考で、教職員による意向調査で3位だった立川康人氏が総長に選ばれ、その直後に京都大が国際卓越研究大学に正式認定されたことも挙げ、これらの動きは「大学の自治」という点でつながっているとみる。

長年にわたり、京都大のキャンパスを彩ってきたタテカン。その文化が存在してきたことと、法的に設置する権利が認められるかどうかは、必ずしも同じ問題ではない。

それでも、大学と教職員・学生の関係や、表現の自由をめぐって何が争われ、裁判所がどのような判断を示したのか。今回の裁判が問いかけたものは、記録しておく必要がありそうだ。

この記事は、公開日時点の情報や法律に基づいています。

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