法制審議会の家族法部会は1月30日、離婚後も父母双方が子どもの親権を持つ「共同親権」を可能にする民法改正要綱案を委員の賛成多数で取りまとめました。
今後現場はどう変わるのか、弁護士の意見を紹介します。
●現場はどう変化するか コメント全文(4)の続き
「争いの長期化。離婚後もDV加害者による支配が続いてしまう」
「早急に離婚したい一心の者が共同親権について同意を押しつけられ、後で紛争に巻き込まれるなど、紛争が増える。また、何が単独で出来る日常行為カなども明確でないため、紛争が増える」
「子を監護養育している親が進学や病気の際などに速やかに方針決定できず、子の福祉を害する」
「とてもではないが、DVやモラハラ案件では正式に離婚はできなくなるので、事実上の離婚という形での別居が長期化し、何かと母子の生活に不都合が生じてくるし、そのような実態を目の当たりにすれば、婚姻自体に踏み切ること、出産に踏み切ることにも恐怖が生じて、さらに人口減少を招きかねないのではないかとすら、危惧する」
「子連れ別居に対する萎縮効果が大きいと思います。また、その反動として、強行突破するなどして深刻な紛争状態になるご家庭も増えると思います。離婚しても元配偶者からの様々な支配、DVから逃れることが出来ず、子どもの育ちに深刻な影響を及ぼすであろうことを懸念します。おそらく、面会交流の申立てや共同親権行使違反(不法行為?)に基づく損害賠償請求、話し合いが出来ないことによる申立てなど、いわゆるリーガルアビューズが多発すると思います。あまり考えたくはありませんが、家族間での殺人事件も増加するのではないでしょうか)面会交流中の殺人事件、別居出来ず追い詰められて配偶者ないし親を殺害など)」
「何でも共同と言われることにより家裁の現場は相当に混乱すると思われます。また、ひどいDVがあっても離婚せず我慢するしかないと思う当事者が増えると思います」
「裁判所の手続が煩雑になり、結果として裁判所全体の業務が遅れる」
「離婚後も紛争が絶えなくなると思う」
「これまでは離婚することで、元配偶者との繋がりを断ち切ることができたが、離婚をしても父母の関係が続いたり、別居親の意向を伺わなければならなくなることで、DV・虐待が続くリスクがある(「子どもの思い通りの選択に同意してほしければ、〇〇をしろ」などと、親権を交渉材料にして同居親や子にとって不利益な条件を出される可能性がある)。また離婚にメリットを感じることができず、DV・虐待に耐え続けてしまうリスクがある。同居親と別居親との間で、子の監護養育の方針に対立が生じた場合、子が進路を選択できず、自己実現ができなくなってしまうリスクなどがあると思われる。また、そのような共同親権を巡りトラブルが生じた過程で育った子どもたちは、婚姻という制度にメリットを感じることができず、婚姻しない選択や子どもを産まないという選択をする可能性が高くなると思う」
「DV、虐待の避難の委縮、家裁のマンパワー不足による機能不全」
「子どもの安全を確保するために避難する場合ですら、親権侵害だとして責められ、避難ができず、子どもの安全が図れない。共同親権の名のもと、相手方の支配や不当な干渉が継続し、離婚をしても相手からの暴力、支配から逃れられない。居所指定権を行使されて、子どもと安全に暮らす場所が確保できない。子どもの進学や医療で意見が対立した場合、子にとって適切な時期に子が望む進路に進めない、医療行為を受けさせられない、医者が医療行為をすることに躊躇する。医者や学校が、離婚後も、双方親権者の同意を得るために紛争に巻き込まれる。親権侵害だとして訴訟が乱発し、法的手続きで裁判所がパンクする。訴訟が乱発し、応訴せざるを得ない側の費用負担が増加する。子どもの意見に反して親権の共同を強制する場合、大人は子どもの意見を聞いてくれないと子どもに学習させる結果となり、子の健全な生育が妨げられる。DV保護命令、離婚、面会交流にずっと取り組んできた一弁護士の体験としての意見です。同居中、相手方からの支配に苦しんだ当事者や子どもたちからすれば、共同親権の強制を可能にする法案は、恐怖でしかありません」
「最も耳を傾けるべき子どもの声を聴く機会がますます失われると思います」
「両親の対立関係が、離婚後も継続し続け、その結果、子の安定的な生活が阻害されると考えます」
「DV事案に限らず、経済的に有意な親権者、声の強い親権者が「同意」という名の下に共同親権を強制させ、事実上自らの意のままに他方の親権者を従えるような、名ばかりの「共同」親権が主張されてしまい、多くの子どもに被害が及ぶ」
「今までの実務上の考えや適応とは異なり、その後に混乱が生じるものと考えます」
「DV被害者の被害が拡大する」
「離婚のハードルがあがる。離婚によって子どもにさらに大きなストレスがかかる」
「非養育者の親が遠隔地に居住する場合に、同意を得るのが煩雑。非養育者の親が、離婚後もイヤガラセ・支配力を行使するための材料にされるおそれ。離婚時に、今後の共同親権を拒否したければ、養育費額を下げろとか面会させろといった取引の圧力がかかる。同意が得られない場合の対処が困難。家庭裁判所が「同意に代わる決定」を細かく出してくれればよいが、日常の揉め事を多数持ち込まれては裁判所がパンクしてしまう。「同意不要の場合」を定めるとしても、よほど細かく規定しなければ現場で成否を判断できず混乱し、結局は正式な裁判決定を要求される。非養育者である親が再婚した場合に、前配偶者との間で同意を求める遣り取りを頻繁にすることは、現配偶者に対する関係で心理的に軋轢を生じかねない。養育者の親が再婚したが、現配偶者と子が養子縁組しない場合に、実親との共同親権が続くとすれば、同様に軋轢」
「早く離婚したいために、共同親権に同意して協議離婚してしまい、子どもについての大事なことが決まらないことになる。監護親が単独で決めると非監護親が家裁に申し立てを繰り返すリーガルハラスメントが起こる。経済的弱者であるシングルマザーがリーガルハラスメントでさらに貧困になる。共同親権下で監護者が決められないことで、手当や養育費が受け取れず、監護親(多くは母親)が経済的に困窮する」
「DV、モラハラの被害に遭って別居せざるを得ない場合でも、子の転校などに加害者の同意が必要となってしまうことで、DV等の被害が拡大・固定化することが懸念される」
「現在でも頻繁な面会交流を実施すると、非監護親から養育費の減額の主張が出てきます(食費を一部負担しているからという理由)、このような主張が頻発することが予想されます。親権者の同意を得ていないことによる社会の混乱(損害賠償請求、親権者の同意を得ることにより適時のタイミングでの医療、進学等ができない)、親権者どうしの紛争」
「DV事案なのに早期離婚のため共同親権に合意してしまう例、本人調停などでDV事案であることを十分立証できないまま共同親権になってしまう例、共同親権になった後、非監護親の協力が得られず子の福祉に反する事態となる事案などが増えることが懸念される」
「婚姻生活中のパワーバランスにより、任意の離婚の際は、離婚成立後も紛争の火種を残し、抜本的解決にはならないケースが増える。また、事件の長期化を引き起こす可能性がある。弁護士業界として紛争が増えることは、事件数の増加につながるかもしれないが、現段階では、共同親権の導入は聞こえがいいだけで、中身が伴わず、悪法となる危険があると思う」
「混乱する。子どもと監護親が単独親権を望んでいても、別居親が同意しないと家裁が介入することになり、子どもが板挟みになる。その他かずかす」
「DV・虐待家庭ほど、離婚を急いで安全確保したいとの思いが強く、虐待者の意向に沿って共同親権を選択した上で協議離婚し、監護者を定めないままになる恐れがあるが、重要事項について毎回の協議が必要とされ、意見が合わなければ合意できず、ひいては子どもにとって大切な重要事項決定が適時・適切になされず子どもの福祉に反するおそれが大きい」
「DVや高葛藤事案であるにもかかわらず、客観的証拠がないために共同親権が認められてしまった場合、子どもとの関わりにおいて離婚後にさらに葛藤が高まるおそれがあり、子どもへの悪影響も懸念される」
「親権を認める代わりに、算定基準の枠の上限での養育費の支払いを認めるなどの交渉が可能になると思います」
「離婚事件の素人の私からみても、選択肢(オプション)が増えるのは良いことだと思いますよ。それに変化がまずい方向ならまた改正して元に戻せばよいことです。まずは何事も失敗前提でやってみるべきでしょう」
「子に関する法律行為について細かいことまで協議しないといけないこととなると紛争がより激化する、子が成人するまでは紛争の火種が残ることとなる。一方で単独親権でも非親権者がいろいろ言ってくることはあり得るので、程度の問題かもしれない」
「現状、母が子どもをつれて出て行ってしまい、その後、一切、父親に合わせないことも多く、父親と子どもとの関係性に大きな影響があると思われ、そのような状況は改善されるべきかと思います。ただ共同親権にすれば改善されるのか、というとそうではないと思います。多くの場合、母親が父親に子どもを会わせない、というより、面会交流の際に、母が父との接触を強要されたり、連れ去りの危険や私生活の平穏への介入への恐怖があるからだと思います。また共同親権にすると、子どもの学校、海外旅行など、一方親の同意などが必須となったりして、いつまでも同意が得られないと手続きが進まないなどの事態も想定されると思います。共同親権か単独親権かを議論する前に、面会交流制度の支援制度や養育費の支払いが行政機関が確保するなどの制度を整備するなど、共同親権制度で想定されるトラブルを解消する制度をまず整備した後で、議論すべきと考えます」