配偶者や恋人がパートナーに暴力をふるうDV(ドメスティックバイオレンス)。警察庁の発表によると、配偶者からの暴力事案の認知件数は年々増えており、2012年は約4万4000件に達した。被害者の95%は女性のため、DVといえば、男性が女性を痛めつけるものというイメージが強い。
しかし、少数ではあっても、女性が男性に暴力をふるう場合もある。いわば「逆DV」とでもいえるケースで、2010年から12年にかけて、その比率は増えている。ネットの相談サイトにも「彼女による暴力に悩んでいます」という男性の相談や、「彼氏に暴力をふるってしまいました」という女性の悩みが投稿されている。
このような「逆DV」を受けた男性が、女性を訴えたらどうなるのか。男性のほうが一般的には力が強いということで、女性の責任が軽くなったりするのだろうか。山口政貴弁護士に聞いた。
●「逆DV」事件の前例はまだ少ない
「一般的に男性のほうが力が強いからと言って、いわゆる『逆DV』として、女性が暴力をふるった場合に、女性の責任が軽くなることはないと思われます。
男性が暴力に抵抗できるかどうかはケースバイケースですし、刃物などを持って暴れる場合であれば力の強さは関係ありません」
夫婦の体格差はそれぞれだし、暴力に立ち向かえるかどうかは、経済面や心理面など、腕力以外の要素も深く関わってくるだろう。しかしながら裁判になった場合、どのような判断が下されるかは、女性がDVを受けたケースと比べると、はっきりしない面もあるようだ。
「ただ、こうした逆DV事件については裁判の件数もまだ少なく、前例となる判例が乏しいため、慰謝料の額について基準となるものがありません。
そこで、仮に裁判となった場合、裁判官が逆DVについて理解がないと、慰謝料請求が認められないか、認められるとしても女性より低額になってしまう可能性があることは否定できません」
●表に出ていない「逆DV」事件が多数ある?
やはり、女性側によるDVの存在が認知されていない、という点が大きいのだろう。一方で、山口弁護士は次のように推察する。
「おそらく、表に出てきていない逆DV事件の件数は相当数に上ると思われます。DVに対する一般的なイメージから、『女性にDVを受けたなどと、恥ずかしくて人に言えない』として、男性が外部への相談をためらうケースや、相談を受けた側が女性によるDVの案件を扱ったことがなく、適切な解決方法を提示できないケースが考えられるからです」
結局、DVの深刻さに男女差はなく、女性によるDVも男性によるものと同様、憂慮すべき問題だと考えていいのだろう。
山口弁護士は「DVは男女問わず、下手をすれば命にかかわる事態に発生しかねません。DVの被害に遭った男性は、すぐに弁護士や警察、役所等に相談すべきであると思います」と、注意を呼びかけていた。