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一橋大アウティング裁判で経過報告…遺族「誰か一人でも寄り添ってくれていたら」
吉田昌史弁護士(左)、南和行弁護士(中央)、鈴木賢教授

一橋大アウティング裁判で経過報告…遺族「誰か一人でも寄り添ってくれていたら」

「おれもうおまえがゲイであることを隠しておくのムリだ」ーー。思いを打ち明けた同級生男子に、同性愛者であることを暴露(アウティング)された男子学生が、大学構内で転落死した「一橋大学アウティング事件」(2015年)。遺族の代理人らが4月19日、裁判の経過を報告する記者会見を開き、社会には同性愛者への偏見が溢れているとして、「アウティングは違法な加害行為だ」と改めて強調した。

この事件では、遺族側が大学と暴露した同級生を相手取って、損害賠償などを求めている。昨年8月から計6回の口頭弁論があり、遺族側によると、双方の意見がほぼ出揃ってきたという。年内には証人尋問が始まる見通しだ。

この日、遺族は弁護団を通し、「アウティングされて辛い息子の心に友達の誰か一人でも、学校側の誰か一人でも寄り添ってくれていたら死なずに済んだのではと思ってしまいます」などとするコメントを寄せた。

●「同性愛者がこそこそ生きている社会が良いのか?」

昨年8月、この裁判について報じられると、ネットでは「同性愛者が、異性愛者に告白するのだから、暴露されるリスクがあるのは仕方ない」といった意見も見られた。遺族側が裁判を通して、なんとか変えたいと願う同性愛者に対する反応の1つだ。

この点について、遺族側代理人の吉田昌史弁護士は会見で、次のように反論した。

「リスクをもたらしているのは、社会の偏見や差別的な感情。リスクがあるから、結果を甘受しろというのは、差別する側が振りかざす、さらなる暴力じゃないかと感じる」

吉田弁護士によると、男子学生もリスクがあることは十分理解していたはずだという。実際、家族にも同性愛者であることは打ち明けていなかった。ゲイであることを打ち明けるほど、被告の同級生に惹かれていたし、だからこそ、暴露されたショックも大きかったのだろう。

会見には、ゲイであることを公表している明治大学の鈴木賢教授(法学)も出席。次のように話していた。

「問題が起きたときは、(同性愛者に責任を負わせるのではなく)社会が責任を取るべきだ。そうしないと、この社会は永遠に変わらない。同性愛者がずっといつもビクビクして、遠慮して、隠して、こそこそ生きていかないといけない。そういう社会が継続することが良いことなのでしょうか」

●どんな事件だった?

訴状などによれば、亡くなった男子学生(当時25歳)は、一橋大学の法科大学院に通っていた。被告となった同級生に好意を寄せ、2015年4月、LINEで「好きだ。付き合いたいです」と告白した。返事は「付き合うことはできないけど、これからもよき友達でいて欲しい」。

しかし、それから2カ月後の6月、被告の男性はクラスメートらで作ったLINEグループで、亡くなった男子学生が「ゲイ」であることを暴露。男子学生は以後、心身のバランスを崩してしまう。大学側にも経緯を相談したが解決することなく、8月24日、大学構内の建物から転落死した。

●裁判で同級生や大学はどういう主張をしている?

遺族側の説明によると、訴えられた同級生の男性は、おおむね、次のように主張している。

「交際を断ったにもかかわらず、男子学生が食事に誘ってくるなどしたため、精神的に追い詰められた。本人を避けるためには、自分が友人から距離を置かざるを得ず、苦境から逃れるには、仲間内で男子学生が同性愛者だと暴露するしか手段がなかった」

これに対し、遺族側は暴露までする必要はなかったと反論している。遺族側代理人の南和行弁護士は、会見で次のように語り、暴露に至ったのは同性愛者を腫れ物のように捉えていたからではないかと指摘した。

「亡くなった男子学生は、『これからもよき友達でいて欲しい』と言われたから、今まで通りの付き合いをしようとした。男女でも告白後、『友達で』と言われてギクシャクすることはある。そのときは、『やっぱり親しくできない』と言えばいいだけで、暴露する必要はない」

また、遺族側は、大学側が適切な対応をしていれば、自殺を防げたとして、大学側の責任も問うている。男子学生が、大学のハラスメント相談室や教授、保健センターに相談を持ちかけていたからだ。一方、大学側は対応は適切だったと主張している。

(弁護士ドットコムニュース)

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