車を運転中にタクシーと衝突し、運転手にケガを負わせたうえで走り去ったとして、道交法違反などの疑いで書類送検されたお笑いコンビ「NON STYLE」の井上裕介さんが3月6日、不起訴となった。井上さんは3月7日夜、記者会見を開き、「被害者の方に、改めておわびしたいと思います」と謝罪した。
報道によると、井上さんは2016年12月、東京都世田谷区の路上で、タクシーを追い越した際にぶつかって、40代の男性運転手にケガを負わせて、そのまま走り去ったとされる。井上さんは2月1日、道交法違反(ひき逃げ)と自動車運転処罰法違反(過失運転致傷)などの疑いで書類送検されていた。
被害者の運転手が「許してあげてほしい」と強く言っていることが、井上さんが不起訴処分(起訴猶予)となった背景にあるという。今回のように、被害者が「許す」とした場合、どんな影響があるのだろうか。岩井羊一弁護士に聞いた。
●被害者の感情はどんな影響がある?
犯罪行為をした人に対しては、その行為に相当な刑罰を科さなければなりません。そうでなければ、社会一般の人を納得させることができませんし、同じような行為を防止することもできません。被害者が許しているかどうかを重視して刑罰の重さを決めると、不公平が生じて、刑罰を科す本来の目的を達成できなくなってしまいます。
しかし、被害者が「許してあげて」と言っているのは、そもそも、行為の危険性や結果の重大性が少ない事件だったということもあります。犯罪行為をした人が謝罪し、弁償などが済んだことで、被害者の感情がやわらいだというケースも考えられます。
そのような場合であれば、重い刑罰を科さなくても社会一般の人が納得することもあるでしょう。犯罪行為をした人が、事件について反省して謝罪したことで、重い刑罰を課さなくても更生して社会復帰できる人だと、社会から評価される可能性もあるでしょう。
先に述べたように、犯罪行為の責任を取らせる際に、被害者が許しているかどうかを大きく考慮することはできません。ただ、刑罰の大枠の中で、重い刑罰にするか軽い刑罰にするかを考える際に、考慮すべき事情ではあると言えます。
また、被害者に許してもらっていれば、逮捕される可能性が低くなる、起訴される可能性が低くなる、判決で量刑が軽くなる、という傾向はあります。起訴すべきか、刑の執行猶予を与えるべきかを考える際に、被害者が許しているかどうかが最後の決め手になる場合もありえます。
井上さんの場合、事件の内容から、不起訴処分することができる事案だったと考えられます。ただ検察庁が報道各社に対して、「被害者の運転手が『井上さんを許してあげてほしい』と強く言っていることを考慮した」と説明したということは、このことが処分を決める最後の決め手になった可能性もあるでしょう。