弁護士ドットコム ニュース
  1. 弁護士ドットコム
  2. インターネット
  3. 「もっと実務寄りに」「法科大学院と統合を」…「法学部」のあり方、弁護士16人の声
「もっと実務寄りに」「法科大学院と統合を」…「法学部」のあり方、弁護士16人の声
写真はイメージです

「もっと実務寄りに」「法科大学院と統合を」…「法学部」のあり方、弁護士16人の声

「法学部で学んだことが何の役に立つのかわからない」「試験前に大量の法律を暗記したが今となっては何も覚えていない」大学3年生の就職活動が始まったこの時期、法学部で過ごした意義が見出せない法学部生から、そんな声が聞こえてくる。

高校の進路指導などでは「法学部はつぶしが効く」「法律の学習を通して身につけた論理的な思考力や言語力はどのような道に進んでも役に立つ」などといった主張を耳にする。一方で、弁護士や公務員など、法律に関係した職に進む学生はともかく、そうでない場合、法学部で学ぶことの意義を見出し難い学生もいるようだ。

最近は文系学部自体のあり方も問われているが、法律の専門家たちは、法学部の教育についてどう考えているのか。弁護士ドットコムに登録する弁護士に意見を聞いた。

●「改善必要」が約6割

以下の4つの選択肢から回答を求めたところ、16人の弁護士から回答が寄せられた。

1 法学部の教育は十分に機能している → 3票

2 法学部の教育は十分に機能していない(改善が必要) → 9票

3 そもそも法学部は不要 → 0票

4 その他 → 4票

回答は<法学部の教育は十分に機能していない(改善が必要)>が9票と最も多く、回答の半数以上を占めた。ついで<その他>が4票、<法学部の教育は十分に機能している>は3票、<そもそも法学部は不要>と回答した弁護士はゼロだった。

<改善が必要>と回答した弁護士の中では、法学部の授業について、学説などの説明が中心となっていて、「実務的な観点の授業を取り入れるべき」という意見が目立った。そうした技術的な部分は法科大学院の教育に任せ、「法体系の枠組みや法的思考の特殊性」といった基礎的な部分をしっかり教育すべきといった意見もあった。

一方で、<十分に機能している>の回答の中には、「法学部は、実学や法技術を教える場」と考えることはおかしいと指摘する意見があった。「あくまで学問としての法律とすれば、現在の法教育は十分に意義のある場だと思う」と述べていた。

<その他>の中には、「過激な考え」と前置きしつつも、「法学部と法科大学院を解体した上で統合し、医学部のような純粋な専門職養成機関として再構成する」という意見もあった。

今回の回答のうち、自由記述欄で意見を表明した弁護士15人のコメント(全文)を以下に紹介する。(掲載順は、十分に機能していない→十分に機能している→その他の順)

●<法学部の教育は十分に機能していない(改善が必要)>という意見

【戸谷 彰吾 弁護士】

「自分が学生の頃は、法曹をめざしている学生の多くは予備校に通い、予備校で法律の体系的な知識を取得していました。そして、法学部の単位は、友人らでノートを共有して乗り切るというのがよくありました。それでいて、大部分が法曹になることができたので、法学部の存在意義はあまりなかったのかなと思う部分もあります」

【武山 茂樹 弁護士】

「まず、法学部自体は必要だと考えます。なぜなら、日本では高校教育までで法律はほとんど教えられていませんが、企業でも法律の素養を持った人材が必要です。このギャップを埋めるために、法学部での教育は、法曹にならない方にとっても必要でしょう。但し、一般企業にとっては、法律以外の素養も必要ですので、法学部では法律の他に、会計や簿記、経営学など広く総合的に社会科学を学べる体制を整えるべきでしょう」

【西口 竜司 弁護士】

「自分自身も法学部出身ですが、大学自体は全く勉強しませんでした。法律自体難しい上に、教授の先生は本を読んでいるだけでした。当然のことですが、授業に出ても分らないので行きませんでした。悪いことに授業に行かなくともテストはノートや過去問が回ってきて楽勝で優を取ることができました。こんな現状では法学部での教育はほとんど意味をなしていないと思います。法学部を活性化するためには外部教員を招聘し、様々な話を聞く機会を設けることが必要だと思います。このままではじり貧ではないでしょうか」

【湯本 良明 弁護士】

「法学部では当然法律が教えられることになるが、その内容は学説などが中心で実務的な観点からの教育はあまりないように思われる。少なくとも、私の学生時代には、実務的な教育を受ける機会はなかった。法学部である以上、法律や学説を教え込むことは当然に必要なことだと思うが、これのみだと法曹を目指さない学生には意義ある教育にはならないであろう。より実務的、社会的な観点から法学部での教育内容を見直すべきだと考える」

【石井 康晶 弁護士】

「法曹を目指している人間からすると、大学の講義の多くは役立たないでしょう。在学中は自学自習が中心で期末試験以外は出席しないことが殆どでしたが何の問題もありませんでした。法曹を目指していない人間となると、法学の体系を重視した授業より、ケースメソッド中心の実践的な授業の方が実入りがあるように感じます。もう少し実務寄りの方向にシフトした方が良いとは思いますが、教員を揃えられるか、という問題もあり解決は容易ではないでしょう」

【鐘ケ江 啓司 弁護士】

「法律の勉強が、仕事をするにあたり有意義であることは間違いありません。ざっと考えても、事実と評価の峻別、人を説得するための技術の習得、社会に対する視野を広げる、といったことがあります。法律は社会そのものを写す鏡だからです。しかし、法学部の授業は、多くの場合、どうでも良い自説を教え込むことに主力がおかれており、教育効果が低いです。ただ、今後、司法試験合格者が教員となることが増えれば、改善されていくと思います」

【杉井 英昭 弁護士】

「教授が教科書を朗読する授業は意味がありません。実定法学・基礎法学とも、社会生活を送る上で役に立つ知見が満載だと思います。実定法に関しては、法律事務に必要な細かい知識は法科大学院で教えればよく、より大まかな法体系の枠組みや法的思考の特殊性を身につけることに特化した方がよいように思います。基礎法学に関しては、法哲学、法社会学、法制史等、現代における社会問題について自らの頭で考えるという態度を身につけるのに役に立つので、そのような観点からの授業は多くの学生が面白いと感じられると思います」

【濵門 俊也 弁護士】

「就活生の皆さんが『法学部で学んだことが何の役に立つのかわからない』『試験前に大量の法律を暗記したが今となっては何も覚えていない』などと述べている状況であるとすれば、法学部の教育は十分に機能していないといわざるを得ないのでしょう。法律学を学ぶことは社会の仕組みを学ぶこととつながっています。大学側においても学生に対する様々なオプションを用意すべき時代となっていると思います」

【鈴木 幸善 弁護士】

「法学部の教育は十分に機能していないと思う。私は、学生に接する機会が多いのですが、学生はみな意欲的に学習に取り組もうとしています。しかし、大学の方に学生を成長させる方法論がないように思います。この原因として考えられるのは、大学において研究者と実務家のバランスが失われているからだと思います。また世間的にも、大学を出ているのに、内容証明郵便の書き方すら知らない学生がいたら、『4年間大学で何をしてたのですか?』と恥ずかしい思いをします。大学、とりわけ法学部には強い変革を期待しています」

●<法学部の教育は十分に機能している>という意見

【岡田 晃朝 弁護士】

「大学の法学部は法律の学部ですので、『学問としての法律』を学ぶところです。実務の法律とは違いますし、実際に私も弁護士になって、学部での法律教育が直接役立った場面は限られています。しかし、法学部は、実学や法技術を教える場でよいと私は思いません。あくまで学問としての法律とすれば、現在の法教育は十分に意義のある場だと思います」

【近藤 公人 弁護士】

「大学を卒業してから相当経過しているので、今の法学部の教育がどうなっているかわかりません。しかし、あえて言うならば、機能をしているのではないでしょうか。教え方に問題のある教授もいると思いますが、法学部の教育は、細かい知識を学ぶのではなく、法的な基本的な考え方や思考を学ぶ場でもあると思います。私は、ゼミが大変役に立ちました。大学の授業は受け身であり、授業内容は、教科書を読めばわかるし、予備校の方がわかりやすいかも知れません。私は、実務・実践に役立つだけが、教育ではないと思います」

【大和 幸四郎 弁護士】

「大学で法律を教えた経験があります。近頃は学生側の評価などを実施しているところもあり、昔に比べ、ずっとわかりやすくなっていると思います。そのため、法律の概要を知ることができ、十分に機能を果たしていると思います。法的な思考は、日常生活にも活用できるのであり、それは大学の授業を受けていれば、身についたと実感しています」

●<その他>の意見

【中村 晃基 弁護士】

「法学部に限ったことではないかもしれませんが、大学教員は教育能力よりも研究能力の方が圧倒的に重視されています。授業が面白くなくとも論文をたくさん書けば評価がもらえるという評価システムに問題があると思います。つぶしが利くかどうかという意味では、公務員試験の試験科目の大部分は法律科目であり、その限度では法学部生は有利とはいえます。その他、憲法や消費者法などは、高校教育でも導入すべきです」

【杉山 伸也弁護士】

「少し過激な考えを書きますが、歴史的には、神学、法学、医学の各専門職養成が大学の主要な任務でした。つまり、法学部は、その起源において専門職養成機関であったといえます。だとすれば、その起源に立ち戻り、法学部と法科大学院を解体した上で統合し、医学部のような純粋な専門職養成機関として発展的に再構成する(かつ、学部入学者数と司法試験合格者数がニア・イコールになるよう厳格にコントロールする)ことも『立ち位置の曖昧な法学部』と『凋落した法科大学院』の再生への道ではないかと思います」

【川面 武 弁護士】

「わが国はアメリカ合衆国のようなコモンローの国とは異なりますので、名称はともかく学部段階で法学部に相当する大学学部があってしかるべきだと思います。現状法学部を有する大学学部も多く、これらを十羽ひとからげにして、『法学部の教育は十分に機能している』とも、『法学部の教育は十分に機能していない(改善が必要)』とも一律に断言するのは困難です」

オススメ記事

編集部からのお知らせ

現在、編集部では正社員スタッフ・協力ライター・動画編集スタッフと情報提供を募集しています。詳しくは下記リンクをご確認ください。

正社員スタッフ・協力ライター募集詳細 情報提供はこちら

この記事をシェアする