通販サイト「Amazon.co.jp」を運営するアマゾンジャパンが1月下旬、児童ポルノの販売を手助けしたとして、警察から家宅捜索を受けたことが、波紋を広げている。
報道各社によると、愛知県警はAmazon.co.jpに出品されていた児童ポルノ写真集を発見し、昨年9月以降、全国の約10業者を摘発したという。アマゾンジャパンは、こうした業者の出品を放置し、業者が児童ポルノ写真集を販売することを手助けしたとして、児童ポルノ禁止法違反(提供ほう助)の疑いがもたれている。
毎日新聞の報道によれば、愛知県警は押収した資料の分析を進めながら、立件の可否を慎重に検討しているという。はたして、アマゾンジャパンが起訴され、刑事責任を問われる事態に発展するのだろうか。児童ポルノ禁止法にくわしい奥村徹弁護士に聞いた。
●児童ポルノ「提供罪」とは?
「今回問題となったのは、児童ポルノ禁止法に規定されている『提供罪』です。
同法では、限定的な人に対する『提供罪』と、不特定多数に対する『提供罪』で刑罰が違います。不特定多数へ提供した場合のほうが罪が重く、法定刑は5年以下の懲役または500万円以下の罰金となっています。
ネット通販サイトを利用し、不特定の人を相手に児童ポルノ写真集を売った業者には、不特定多数に対する『提供罪』の正犯が成立します。
ここで『提供』というのは、品物を発送するなどして、受領者がそれを利用可能な状態にすることを言います」
アマゾンジャパンの責任はどうだろうか?
「まず、アマゾンがどんな役割を担っているかについて、確認しましょう。今回問題になった写真集は、古本としてアマゾンマーケットプレイスに出品されたものです」
マーケットプレイスは、Amazon.co.jpを通じて、個人や業者が商品を販売するサービスだ。業者が商品の保管・発送業務をアマゾンに委託しない限り、基本的にアマゾンが商品の現物を目にしたり、取り扱ったりすることはない。
「アマゾンジャパンは、自社サイトで広告して注文を取り次ぎ、代金決済を代行したに留まり、直接写真集の発送を担当していないように見受けられます。
そこで今回は、提供罪そのものではなく、『ほう助』での捜索となったようです」
●「ほう助」にあたるのか?
ほう助とは、一言でいうと「手助け」ということだ。今回のアマゾンの行為は、児童ポルノ提供罪の「ほう助」にあたるのだろうか?
「アマゾンの行為は、提供行為そのものではありませんが、正犯者(業者)にとってみれば、アマゾンに買主を見つけてもらい、代金の回収もしてもらえるわけです。その点で、正犯者の提供行為が容易になっていると言えます。
こうした客観面だけを見ると、アマゾンの行為は『ほう助』にあたると評価されるおそれがあります。
しかし、主観面を見ると、話が違ってきます」
その主観面というのは、何のことだろうか?
「マーケットプレイスの出品規約には、次のように書いてあります。
『Amazon.co.jpは、合法的なアダルト商品を販売します。当サイト上で販売のために掲載される商品は、児童買春、児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律(児童ポルノ法)(平成11年法律第52号)等、日本の法令を遵守しているものでなければなりません』
したがって、もし違反が明らかになれば、商品の削除ないし解約という対応をしていると思われます」
アマゾンは、少なくとも規約上は、「児童ポルノ」の販売を許していないわけだ。対応についても、NPOからの指摘を受けて、一部の商品を削除していたという報道もある。
「マーケットプレイスで、アマゾンは基本的に現物を扱わないうえ、大量の商品を扱うため、全商品のチェックは事実上不可能と思われます。
仮に、アマゾンが何らかの理由で、出品されているのが児童ポルノ写真集だと知りつつ、販売を許可していたとしたら、提供罪のほう助の責任を問われる可能性があります。
しかし、出品されているのが児童ポルノだと知らなかったとしたら、普通はほう助の故意がないと思われます。したがって、通常であれば、アマゾンが提供罪のほう助の責任を負うことはないと思います」
実際、「何が児童ポルノか」は、明確に判断できるケースばかりではない。まして、中身を見てもいないのに、それが「児童ポルノかどうか」を判断するのは難しいだろう。
●アマゾンに「刑事責任」はあるか?
しかし、アマゾンのようなサービスを提供していれば、児童ポルノのような違法商品の取引に利用される可能性は否定できない。そのことによって、ほう助犯にはならないのだろうか?
「犯罪の道具として利用される可能性を認識していただけで、ほう助犯に問われるのではないか、という議論があります。
この点については、ファイル共有ソフト「Winny」作者が著作権侵害のほう助に問われた事件について、最高裁が2011年12月19日に出した決定が参考になります」
どんな内容の決定だろうか?
「最高裁決定はソフトそのものを『中立的なもの』だと判断したうえで、『ソフトの提供行為について、(著作権侵害の)幇助犯が成立するためには、一般的可能性を超える具体的な侵害利用状況が必要』としています。
また、『例外的とはいえない範囲の者が同ソフトを著作権侵害に利用する蓋然性が高いと認められる場合で、提供者もそのことを認識・認容しながら同ソフトの公開、提供』をした場合に限り、ほう助を認めるべきだとしています。
この判例を参考に考えると、マーケットプレイスのようなサービスの提供行為について『ほう助犯』が成立するためには(1)一般的可能性を超える具体的な侵害利用状況が必要で、(2)そのことをアマゾンも認識・認容している場合にのみ『ほう助犯』が成立する、ということになると思います」
それでは、児童ポルノの流通について、アマゾンのような業者にはどこまでの責任があるのだろうか? 奥村弁護士は次のように指摘していた。
「児童ポルノについて、アマゾンマーケットプレイスのような商品売買仲介業が、商品の合法性を確認する義務を負うという明文の法令はありません。
児童ポルノ法では児童ポルノを流通させる行為に対応して、『運搬罪』『輸入罪』『輸出罪』など細かい罪を設けていますが、売買を取次ぐ行為については何の規定も設けていません。
もう少し注意して監視すれば、児童ポルノ写真集の流通を止められた可能性はありますので、道義的責任は問われると思いますが、刑事責任を問うのは難しいでしょう」
違法な商品の流通について、マーケットプレイスのような仲介サービスを提供している業者がどこまでの責任を負うべきなのか、議論を深める必要がありそうだ。