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ダイヤモンド・オンライン連載企画/匿名掲示板への気軽な書き込みが名誉毀損に!

ダイヤモンド・オンライン連載企画/匿名掲示板への気軽な書き込みが名誉毀損に!

昨年末時点での個人普及率が79.1%と、身近な存在となったインターネット。中でも「2ちゃんねる」に代表される匿名掲示板は、本名を知られることなく気軽に自分の意見を表明できる場として、根強い人気がある。しかし一方でその「気軽さ」故に、容易に名誉毀損を生みやすいという面もある。もし被害者が名誉回復を求める行動に出たら、投稿者はどのようにして割り出されていくのか。その経緯を解説する。

●決して完全に「匿名」ではない匿名掲示板。ある日舞い込んだ一通の書面には

 「ある日突然、『発信者情報開示に係る意見照会書』と書かれた書面が、私が契約しているインターネットプロバイダから届きました。書面には『貴方が発信されました、次葉記載の情報…』と記載され、請求者に弁護士の名前が書かれています。

 確かに、私はある掲示板に投稿しました。ですが、書き込んだのは匿名掲示板のはずです。なぜ、私が書き込んだことが分かったのでしょうか。その書面には、『損害賠償請求権の行使のために必要』とも書かれていますが、私は訴えられるのでしょうか……」

 ごく平凡なサラリーマン、N氏からの相談だ。今日、インターネットは誰でも自由に自分の意見を発表できる身近な存在になっている。インターネットのおかげで、誰でも気軽に自分の意見を発表できるようになった。しかし、その一方で、「気軽な」意見発表が「気軽な」名誉毀損を生み出しているという現状がある。

 掲示板やブログでの「気軽な」表現が、後々、取り返しのつかない重大な結果を生じさせてしまう。その経緯について説明しよう。

●投稿者を特定する最初のステップ「発信者情報開示請求」とは

 なぜ、N氏が書き込みを行ったことが判明してしまったのだろうか。掲示板で書き込みを行った場合、その書き込みが、いつ、どこのプロバイダを経由してなされたかについての情報(アクセスログ)は、掲示板の運営者が把握している。名誉毀損表現がなされた場合、委任を受けた弁護士は掲示板の運営者に対して、送信防止措置(「削除」)を依頼するとともに、プロバイダ責任制限法4条1項に基づき、発信者情報の開示を求めることになる。

 開示の請求を受けた掲示板の運営者は、メールアドレスなどを把握している場合には、プロバイダ責任制限法4条2項に基づく、意見照会を行うことになる。掲示板によっては、投稿を行う際にメールアドレスの入力を求められるケースもあるので、掲示板運営者がメールアドレスを把握している場合には、まずはそのメールアドレス宛に意見照会を行うのが普通だ。

 掲示板運営者が投稿者の連絡先を把握していない場合には、意見照会を行うことなく、発信者の情報を開示するか否かについての判断を行い、掲示板運営者が名誉毀損表現であると判断した場合には、把握しているアクセスログを開示することになる。

●「外国法人が運営しているから大丈夫」は過去の話

 ここで掲示板の運営者が開示に応じない場合には、委任を受けた弁護士は、発信者情報の開示を求める仮処分命令の申立を行う。

 最近では、外国法人が日本語掲示板を運営しているケースも増えている。その場合、従来は日本に裁判権があるのか、申立を行った裁判所に管轄が認められるのかといった問題があった。しかし近年民事訴訟法が改正され、民事保全法11条、民事訴訟法3条の3第5項、10条の2、民事訴訟規則6条の2によって、一定の条件を満たす場合には、東京地方裁判所に管轄が認められるようになった。なお「2ちゃんねる」に関しては、民事訴訟法4条5項「主たる業務担当者の住所」が東京都内にあることから、東京地方裁判所での管轄が認められている。

 裁判所が、投稿された内容が名誉毀損表現であると、提出された証拠から一定程度確からしいと判断した場合には、裁判所は、担保決定を行う。

 被害者の側が担保決定で指定された金額(概ね30万円から50万円程度)を供託所に供託し、発行された供託書と当事者目録、投稿記事目録、発信者情報目録を裁判所に提出し、送達用郵券を納付すれば、仮処分命令が発令されることになる。

 発令された仮処分決定書を掲示板の運営者に示すことで、掲示板の運営者は、投稿者に関する情報を開示する。

●アクセスログが開示されたら次はプロバイダに投稿者情報の開示を請求

 掲示板の運営者から開示される情報は、通常、IPアドレス(どこのプロバイダを経由して投稿を行ったかという情報)とタイムスタンプ(いつ投稿を行ったかという情報)のみ。IPアドレスが分かれば、投稿者が利用したプロバイダが分かるので、そのプロバイダに対して、投稿者の情報(住所、氏名、連絡先等)の開示を求めることになる。

 開示の請求を受けたプロバイダは、プロバイダ責任制限法4条2項に基づく意見照会を投稿者に対して行う。冒頭のN氏に届いた『発信者情報開示に係る意見照会書』と書かれた書面というのが、この意見照会書だ。

 ここで重要なのは、「意見照会書が届いた」ということは、掲示板の運営者が名誉毀損表現であると判断したか、または裁判所が名誉毀損表現であることが一定程度確からしいと判断したことを意味する、ということだ。

 プロバイダは、意見照会の結果を踏まえ、開示するか否かの判断を行う。仮処分命令が発令されたという事実を尊重するプロバイダであれば、2週間程度で開示に応じるケースもある。

 ここで仮に、プロバイダが開示に応じなければ、プロバイダに対して、発信者情報の開示を求める訴訟を起こすことになる。この場合、プロバイダは投稿を行った本人ではないので、名誉毀損行為に該当しないと一応主張はするだろうが、投稿の真実性や投稿内容を真実であると信じた具体的事情についての情報を所持していないのが普通。そのため、実際のところ、あまり有効な反論を行うことは期待できない。

 数回の裁判期日を経た上で、判決が出される。ここで控訴するプロバイダは、まずない。通常、判決確定から2、3週間後には、プロバイダから契約者の情報が開示されることになる。

●いよいよ投稿者本人への責任追及。損害賠償額が数千万円に上る可能性も

 依頼を受けた弁護士は、プロバイダが開示した情報に基づいて、投稿者に対する損害賠償の請求を行う。投稿者に対して請求する賠償金額は、発信者の特定の為に費やした費用及び精神的慰謝料をベースに、さらに、営業損害を受けたような場合には、その損害金も含めて請求する。その請求金額は、500万円から1000万円、営業損害の程度によっては、数千万円になる可能性もあある。

 さらに投稿者から何らの謝罪もないようなケースでは、名誉毀損罪(刑法230条1項)で刑事告訴も行われる。民事訴訟で判決を得ているケースでは、名誉毀損行為であると裁判所が認めているわけなので、さすがに警察も告訴を無視するわけにはいかない。警察は非常に多くの事件を抱えているので、すぐに動くことは期待できないが、いずれ、投稿を行った者を「被疑者」として取り調べることになる。

●「書き込む」ボタンを押す前に。モニタの向こう側には何千、何万人が

 掲示板に投稿する場合、まるで、自分のパソコン上で日記でも書くような感覚で書いてしまい、「書き込む」ボタンを押してしまう、しかも、深夜、仕事に疲れてお酒を飲んでしまった勢いで…。このような経験をされた方も多いのではないかと思う。しかし、ひとたび「書き込む」ボタンを押してしまえば、何千、何万という人が投稿を見てしまうことにもなりかねない。

 一旦投稿してしまった後では、掲示板の運営者の協力が得られない限り、削除をすることは非常に困難。裁判所の基本的な考え方として、投稿者本人からの削除の申し出は認めてくれないからだ。

 「投稿する」のボタンを押す前に、表現方法が適切な表現であるかかどうか、投稿内容が真実であると断言できる根拠を有しているかどうか、これらの点については、一度立ち止まって冷静に判断するようにしてほしい。

●逆に自分が掲示板で誹謗中傷を受けたら、どうしたらいいか

 掲示板で、誹謗中傷を受けた場合には、まず掲示板の削除に関する手続きを熟読しよう。掲示板の中には、削除依頼の内容そのものを掲示板上に掲載するものもある(2ちゃんねるなど)。

 削除依頼の内容が掲示板に反映される場合には、逆に名誉毀損表現が広がってしまう可能性もある。また、自らに対する誹謗中傷がなされたことで、冷静な判断力を失ってしまい、思い込みで投稿者を断定するとともに、その人に対する名誉毀損表現を行ってしまうなどのケースもあるだろう。

 誹謗中傷を受けた被害者が、逆に名誉毀損の加害者となってしまったのでは元も子もない。ネット上で被害を受けた場合には、冷静な対応をすることが、何よりも重要だ。

●誹謗中傷対策に強い弁護士は匿名掲示板で探せ!?

 インターネットの誹謗中傷対策を行った経験のある弁護士であれば、2ちゃんねる掲示板に対する仮処分命令を取得した経験があるのが通常だ。

 2ちゃんねる掲示板の場合、発信者情報の開示を求める場合には、「批判要望@2ちゃんねる掲示板」で開示請求を行い、「アクセス規制情報@2ちゃんねる掲示板」を通じて発信者情報が開示される。

 開示に際しては、代理人名での投稿が必要なので、誹謗中傷対策を行った経験がある弁護士であれば、必ず、これらの掲示板上に名前が出ているはずだ。相談する弁護士が経験のある弁護士か否かを判断する際の、一つの目安にはなるだろう。

●発信者特定までには半年~1 年。労力・費用ともに相当な負担

 インターネット上で、名誉毀損表現が行われた場合、掲示板運営者に対する仮処分命令の申立、さらに、その後の経由プロバイダに対する発信者情報の開示請求訴訟まで行う場合には、少なくとも半年から1年程度の期間がかかってしまう。

 名誉毀損表現であると最終的に裁判所が判断した場合には、投稿者に対する損害賠償請求を行うことは可能だが、それまでにかかる労力は並大抵なものではなく、また相当な費用が必要になる。

 以上のように、インターネット上で、完全な意味での匿名ということはあり得ない。最終的には、特定され、責任を追及される可能性があるということを認識した上で、節度ある利用を行ってほしいと思う。

 名誉毀損表現を行った場合、最終的には、損害賠償を請求される側に立たされる。また、誹謗中傷を受けた側は、そのために、重要な取引先を失うなど、その影響は計り知れない。

 誹謗中傷は、する側される側、双方にとって何のメリットもない。実社会で許されないことは、インターネットの世界でも同様に許されないのだ。このことをしっかりと認識した上で、責任ある対応をしてほしいと思う。

*本記事で紹介した事例は、筆者が扱っている実際の例を元にしていますが、事実関係については一部省略等しており、正確なものではありません。

プロフィール

最所 義一
最所 義一(さいしょ よしかず)弁護士 弁護士法人港国際法律事務所湘南平塚事務所
東京大学農学部農業工学科(現生物・環境工学専攻)を卒業後、IT技術者や病院事務職(事務長)を経て、弁護士に。一般企業法務や知的財産問題のほか、インターネット関連のトラブルの解決に精力的に取り組んでいる。

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