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芸術分野の賞、審査員も受賞者も「男性優位」 調査で浮き彫り「ハラスメント増長する」
会見する深田晃司監督(2021年12月9日/弁護士ドットコム)

芸術分野の賞、審査員も受賞者も「男性優位」 調査で浮き彫り「ハラスメント増長する」

「審査員も受賞者も男性ばかり」。美術・演劇・映画など芸術分野のジェンダーバランスに関する調査で、男性優位の評価体系が浮かび上がった。

調査をしたのは、表現活動に関わる人に対するハラスメントについて調べている「表現の現場調査団」。各分野で選定・評価する側と受ける側で、ジェンダーバランス(男女比率)の不均等があることに着目し、12月9日に調査の中間報告をおこなった。

その結果、知名度の高い賞やコンクールの審査員と受賞者などのジェンダーバランスについて、多くの分野で男性が中心になっていることがわかったという。こうした不均等が、ハラスメントを増長する原因の一つなっていることを指摘し、多様性も失われているとした。

この日、東京・霞が関で開かれた会見には、調査団メンバーである映画監督の深田晃司氏も参加した。

深田監督は、映画業界では学生や新人の女性監督が多いにもかかわらず、出産などで仕事をやめるケースがあるとして、「長時間労働などが常態化している現場を変えて、多様な働き方を維持するための制度づくりが必要だ」と語った。(弁護士ドットコムニュース編集部・猪谷千香)

●美術大、7割が女子学生、でも女性教授はたった1割

今回の中間報告をジャンル別にまとめる。教育機関のデータはすべて2021年度のもので、美術学部を対象とした。賞のデータは2020〜2021年度に開催されたもので、男性・女性・その他(グループやXジェンダー・ノンバイナリー・性別不明など)で集計されている。

【美術】

15大学の美術学部を調査したところ、女性の学生の割合は平均72%で、男性の学生よりも圧倒的に数が多かった。割合が一番低い東京藝術大学でも女性の学生が66%を占め、秋田公立美術大学や京都市立芸術大学など、8割を超える大学もあった。

しかし、女性教授の割合は平均12%と反転。女性教授の割合が最も高い沖縄県立芸術大学でも31%で、広島市立大学にいたっては0%だった。

また、調査団では4つの賞(CAF賞、芸術選奨、シェル美術賞、VOCA展)のデータを分析した。いずれの賞も審査員や大賞受賞者は男性が5割以上となっており、副賞受賞者やノミネート作家は女性のほうが多くなる傾向があった。

調査団では「このような歪な男女比を抱える日本の美術大では、女子学生に不利になる問題が多く、また深刻なハラスメントへと発展するケースも見られ、日本の美術界における表現の自由が脅かされる事態へとつながっている」と分析している。

賞のジェンダーバランスの不均等にも危機感を持っており、「美術分野の内外から目を向ける必要がある」とする。

画像タイトル 表現の現場調査団メンバー

●評論作品の賞審査員、100%が男性

【文芸】

調査団では5大文芸誌(「群像」「新潮」「すばる」「文學界」「文藝」)主催の文芸賞・評論賞、および文芸賞三冠(芥川賞、野間文芸新人賞、三島由紀夫賞)を調査した。その結果、小説などに与えられる賞の審査員のジェンダーバランスはおおむね男性6割、女性4割となっていた。受賞者も男女差はなく、女性の受賞者が多いものもあった。

しかし、評論を対象とした賞では、審査員・受賞者ともに男性がほぼ100%を占めていた。調査団では「文芸ジャンルにおいては、小説のような創作と評論では評価体系が大きく異なり、とくに評論分野は男性中心に成り立っていることが端的に現れた結果であるといえる」と指摘している。

【演劇】

演劇では岸田國士戯曲賞、近松門左衛門賞、劇作家協会新人戯曲賞、読売演劇大賞、紀伊國屋演劇賞、利賀演劇人コンクールの6つの賞を対象とした。審査員は男性が81%、女性が19%で圧倒的に男性が多かった。

調査団では「特に岸田國士戯曲賞は、演劇界の芥川賞といわれ、1955年から続いている歴史ある賞だが、過去の受賞者が審査員として審査をおこなうというシステムであるため、大多数が男性となっている。受賞者の大半が男性であることは、こうした背景と関係があるのではないか」と分析している。

●今後はアニメや漫画などの分野も調査

【映画】

調査団では今回、映画作品や監督のキャリアのステップアップにとって重要で、登竜門としての役割を果たしている主要な映画賞、コンペティション6つ(毎日映画コンクール、日刊スポーツ映画大賞、日本映画監督協会新人賞、新藤兼人賞、日本映画プロフェッショナル大賞、ぴあフィルムフェスティバル)に着目した。

調査によると、審査員は男性が80%、女性が20%と圧倒的に男性が多勢を占めた。受賞者の統計ではさらに差が開き、男性が85%、女性が15%となり、「男性主観による評価が積年常態化している状況」(調査団)という。

深田監督は会見で、今回の調査について次のようにまとめた。

「4つの分野から報告させていただきましたが、大事なのはただ調査するだけでなく、この調査をどう生かしていくかということだと思っています。

たとえば映画業界でいえば、映画製作者連盟には働きかけをしたり、また、経済産業省でも2018年から映画業界の労働環境のアンケートをとっています。そのアンケート結果をもとに、業界の適正化や改善を大きく進めようとしています。

ただ、違う視点から私たちが活動していくことはできると思っています。今、4つの分野以外にも漫画やアニメ、写真、デザイン、建築などの分野の調査をおこなっていますので、来年3月に発表する予定です」

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