自身のウェブサイト上に他人のパソコンのCPUを使って仮想通貨をマイニングする「Coinhive(コインハイブ)」を保管したなどとして、不正指令電磁的記録保管の罪(通称ウイルス罪)に問われたウェブデザイナーの男性の上告審弁論が12月9日、最高裁第一小法廷(山口厚裁判長)で開かれた。判決期日は追って指定される。
最高裁は2審の判断を変更する場合に弁論を開くことが多いため、男性に罰金10万円の支払いを命じる逆転有罪判決を言い渡した2審・東京高裁判決が見直される可能性がある。
弁護側は憲法上、刑法上、刑事訴訟法上の問題があると指摘。1審と2審で判断が分かれた不正性について「コインハイブが社会的に許容されていなかったと断じることはできない」などと述べ、無罪を主張した。
検察側は「クリプトジャッキングに相当する行為で、国際的にもサイバー犯罪として取り締まられている。今回の行為の違法性を否定するならCPU等の無断使用を解禁することになり、日本を世界中からの草刈り場に置くことと等しい」などと上告棄却を求め、結審した。
●被告人の男性「正しい判決を願う」
弁論後、被告人の男性と弁護団は都内で会見を開いた。男性は「これがもし有罪となってしまった場合、クリエイターの方々がやりにくい世の中になってしまうと思うので、無罪という形で正しい判決がいただけることを願っています」と話した。
主任弁護人の平野敬弁護士は「クリプトジャッキングというのは他人のウェブサイトを不正に改ざんして、仮想通貨採掘ツールを埋め込む行為をいう。今回のケースのように、自分のウェブサイトにJavaScriptを設置して、仮想通貨を採掘する行為とはまるで違うものだ。たしかに、世界ではクリプトジャッキングが問題になっていて、刑事的な訴追対象になっているのは事実だが、それと今回のケースを意図的に混同しようとする検察官の主張は悪質で、誤導的な説明だったと思う」と批判した。
主任弁護人の平野敬弁護士(左)、壇俊光弁護士
●これまでの経緯
この事件は、コインハイブの呼び出しコードであるプログラムコードが不正指令電磁的記録に当たるかどうかが争われてきた。不正指令電磁的記録にあたるためには、反意図性と不正性という2つの要件がある。
1審横浜地裁は、反意図性を認めたが、不正性については「男性がサイトに設置したコインハイブが社会的に許容されていなかったと断定することはできない」と認定。コインハイブが不正な指令を与えるプログラムだと判断するには「合理的な疑いが残る」として無罪を言い渡した。
2審東京高裁は、1審と同じく反意図性を認めた上で、不正性についても「賛否が分かれていることは、コインハイブのプログラムコードの社会的許容性を基礎づける事情ではなく、むしろ否定する方向に働く事情」などと判断。故意や目的も認め、罰金10万円の逆転有罪とした。