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暴力団、やめさせれば平和になりますか? 離脱後「5年は組員扱い」口座も作れず
廣末登氏

暴力団、やめさせれば平和になりますか? 離脱後「5年は組員扱い」口座も作れず

ネットでは「修羅の国」とも言われる福岡県。全国に22ある指定暴力団のうち5つがこの県に集まっている。

福岡育ちの記者にとっても、暴力団は身近なところにいた。どこそこに銃弾が撃ち込まれたというニュースは数年に1回は聞いたし、幼稚園の頃には、前から歩いてきた刺青のおじちゃんを指して「遠山の金さんがいるよ」と言って、母の寿命を縮めたこともあった。

2007年には近所の路上で道仁会(久留米)の組長が頭を撃たれて殺されている。夜のニュースでは、ドラマ『踊る大捜査線』のごとく、鑑識が地べたをはう映像の背景に、自宅マンションが映っていて不思議な感覚がしたものだ。

その暴力団の構成員が、2010年に福岡県ででき、全国に広がった「暴排条例」(暴力団排除条例)などによって減り続けている。現在、構成員は2万人を割ったとされる。死亡などの自然減や暗数なども勘案すると、年平均600人程度が離脱しているとみられている。

しかし、彼らの就職先は少ない。全国暴力追放運動推進センターが2010年からの7年間で支援した離脱者は4170人。就職できたのは、わずか90人だ。しかも、追跡調査がないので、仕事を続けているかは分からない。

残りの約4000人はどうなってしまうのだろうか。暴力団研究の第一人者で、7月に『ヤクザの幹部をやめて、うどん店をはじめました。』(新潮社)を上梓した廣末登さん(福岡市在住)に聞いた。(編集部・園田昌也)

●現在の暴力団、やめても指は詰めない「警察が退職代行」

ーー暴力団員が減っているとのことですが、そんなに簡単にやめられるんですか。指を詰めないといけないのでは?

暴力団は資金源を次々に断たれ、「シノギ」(収入手段)ができず厳しい状態にあります。なので、次々に人がやめているのです。

一頃と違って、今は警察が暴力団の「退職代行」をやってくれます。組の脱退届を書いたら、警察が組に届けてくれるんです。福岡県警では電話で対応なんてこともやっているそうです。

もしもそこで、妨害や制裁が科されるようなことがあれば、警察が介入しますから、よほどのことがなければやめられます。私がインタビューした範囲では、子どもの存在や慕っていた親分の代替わりなども引き金になってやめる人は多いですね。

●現状は戻るも地獄、出るのも地獄

ーーうまく抜けられたとして、その後はどうするんでしょうか?

ほかの人と同じように働いて生計を立てることになります。ただ、「カタギ」になる上で、暴排条例にある「元暴5年条項」が足かせになっています。

この条項があることで、離脱後5年は銀行口座などを開設できず、職業選択が制限されているのです。もちろん、他府県では「偽装離脱」みたいなものもあるそうですから、無意味とは言いませんが…。

ーー福岡県などの条例では、「暴力団員でなくなった日から五年を経過しない者」も「暴力団員等」というくくりになっていますね。元暴力団というだけで、世間からの厳しい目が向けられるのに、公的な制約も大きいと。

誤解しないで欲しいのですが、これは5年が経過すれば、「これであなたは暴力団員ではありません」という仕組みではありません。判断するのは警察ではなくて、各業界です。銀行や不動産業界などがカタギとして見てくれるか。見てくれないことの方が圧倒的に多いのです。

この仕組みがあることで、組がやめようとする暴力団員に、「元暴5年条項というのがあってなぁ」と慰留することすらあると聞いています。現状は戻るも地獄、出るのも地獄の状態です。

ーー「出るも地獄」とは具体的にはどういうことでしょう。朝日新聞には、脱退から8年たっても口座を作れず、改名した人の話も出ていました(2016年12月5日付)。

暴力団員や元暴5年の対象者は、先ほど説明したように銀行口座を作れないし、家も借りられないんです。交際相手の名義にしていることが多いようです。

想像してみてください。組から抜けてゼロからのスタートになったとき、銀行口座がない人を雇ってくれる会社がどれだけあるでしょうか。彼らの雇用に前向きな「協力雇用主」の存在もありますが、まだまだ質も量も足りていません。

また、一般的に、仕事を探す元暴力団員はまず、ハローワークを訪ね、協力雇用主を紹介されますが、多くは広域連携をしている県外の仕事を勧められます。そちらの方がゴタゴタが少ないという判断でしょう。

もちろん組から追われた人はそれでも良いかもしれない。過去を知らない人たちばかりの新天地でのスタートです。でも、地域で暮らしてきた良い歳した人が、いきなり県外で働けるでしょうか。

一方、自営業も難しい。新著の『ヤクザの幹部をやめて、うどん店をはじめました。』では、小倉の商店街にうどん屋を出した元工藤会幹部の中本さんにインタビューしました。中本さんのような成功事例は極めてレアで、うどん屋は繁盛しています。でも、元暴5年の関係で、飲食店なのに火災保険に入れていません。

●暴力団員、意外と肉体労働は向かない?

ーー協力雇用主は職種が限られているということですか?

多いのはやはり建設などの仕事です。暴力団の人って、一見肉体労働が向いているような気がするでしょう。でも、彼らは日頃の不摂生から、体を壊していることが多いので、実はあまり向いていない人も多いんですよ。

指がない人は力が入りにくいし、麻薬などで体が弱っている人もいる。それに建設現場には、暴力団業界と近い人たちがいるので、また染まってしまう恐れもありますよね。マッチングがうまくいかないと、お互いにとって不幸です。

ーー統計によると、2%ほどしか就職できていないとか。

それだけ厳しいということです。私自身、福岡県更生保護就労支援事業所の所長として、元暴力団員にかかわらず、15歳から85歳までの「訳アリ」の人の就労を手伝っています。せっかく勤めても、元暴力団ということでいじめられる人もいますし、中には生活保護を受けている人もいます。

社会復帰しようと暴力団をやめたのに居場所がない。それって凄く怖いことじゃないでしょうか。食うため、生きるためには、何かをしないといけない。

もちろん、贅沢が言える立場ではないかもしれませんが、定着して働ける場所があることが大事です。

――行き場がないってことは、つまり元に戻ってしまったり、アウトローなことをしてしまったりするてことですよね?

暴力団は今、食えなくなってきています。適切な仕事があれば、自然に人が減って無くなります。一番怖いのは、急に稼ぎがなくなって、目の届かないところに潜ってしまうことです。たとえば、麻薬の密売やオレオレ詐欺などです。「半グレ」なんて言葉、聞いたこともあるでしょう。

現在、日本がやっている「北風の政策」で年平均600人ほどが離脱しています。しかし、「太陽の政策」を怠っているので、就職できなかった98%はどうなっているか分からない。見かけ上は「暴力団がない社会」になりつつあるけれど、実態はどうなのか。

ちゃんと受け皿を用意しているなら良いけれど、それがないなら無理して追い込むべきではないと思っています。

●「必要悪」からの変化 それでも受け皿は必要

ーー「暴力団」については、「地域の自警団」的な役割を期待して「必要悪」であると考える人もいるようですが?

日本は訴訟社会じゃありませんから、昔は暴力団に町の顔役的な役割がありました。お金の回収に行ってもらうとか。もちろん、全員が望んでいたわけではないにせよ、持ちつ持たれつのサービス業だったわけです。

たとえば、最近、熊本市内でぼったくりが増えているというニュースがありました。これも暴力団が弱体化したからではないでしょうか。普通は警察に相談しても「民事不介入」ですが、暴力団なら睨みをきかせてくれる。

暴力団は地場産業ですから人気商売。自分が住んでいる街では頑張ります。阪神淡路大震災や東日本大震災のとき、暴力団が率先して炊き出しや物資の輸送をした話は有名ですよね。是非は別として、昔から、そういう文化があったんです。

ーーでも、そういう「任侠」への視線は変化しているようにも感じます。

昔は、「ヤクザ」がすぐそばにありました。とにかく、ヤクザの事務所に駆け込めば仕事はあった。

でも、みんなが吸っていたタバコが少数派になって制限されたり、結婚しない人や離婚する人が増えたりと、世の中や物の見方は変わります。その中で、「ヤクザ観」も変わってきたということなんでしょう。

それは仕方がないことです。ただ、行政が一気に変えようとすると摩擦が生じる。暴排条例をつくるなら、社会復帰を促進する条例も、同時並行的につくるべきです。現状は元暴力団員の生活権を奪っている状態にしか見えません。それは彼らを「別の犯罪に追い詰める」ことにもなりかねません。

社会は一つの有機体です。そこに強烈な外科手術を加えると歪みが出てしまうんです。うまく包摂する道を探るべきです。

――では、どのようなアクションが必要なんでしょうか?

まずは、「社会的包摂」の成功事例を共有することが大切だと思っています。過去作の『ヤクザと介護』(角川新書)では、サラリーマンとしてうまくいっている事例を書きました。

対して、新著の『ヤクザの幹部をやめて、うどん店をはじめました。』は、小倉の京町商店街で、うどん店を出した元工藤会幹部のお話です。こちらは自営業としての成功です。

僕としては、彼らを模範にして欲しいんですよ。元暴は、誰しも社会に出たときの逆風を感じている。「あなただけじゃない。みんなそう。乗り越えているじゃないですか」って。

そして、それを見て、一般の人も「元暴でも大丈夫なんだ」と思ってもらいたい。そういう支え合いのコミュニティづくりが今後一層重要になってくると思います。

また、暴力団員の多くは恵まれない家庭環境で育っています。小さい頃から社会的資本(正しい役割を学ぶ人とのつながりなど)や文化的資本(感性を育てる学びの機会)から切り離されています。「自己責任」で切り捨てないような教育政策であるとか、公助・共助の一環として、離脱者のみならず、現役の暴力団員をも対象にした、生活全般の相談を受け付ける「ワンストップセンター」などの必要性も感じます。

(弁護士ドットコムニュース)

この記事は、公開日時点の情報や法律に基づいています。

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