数百万円で購入した絵画が後から贋作だと判明したーー。こんな投稿が弁護士ドットコムの法律相談コーナーに寄せられました。
相談者の男性は数か月前、ある画廊で「本物だ」と言われて数百万で絵画を購入したそう。しかし購入後に専門の機関に鑑定依頼を出したところ、贋作だと判明しました。画廊側は「騙すつもりはなく自分も本物だと思った」と返金に応じないそうです。
偽物と分かっていながら売った場合には詐欺罪に当たる可能性もありそうですが、そうでない場合は売主の責任を問えるのでしょうか。北島健太郎弁護士に聞きました。
●取引が無効となれば売主は返金義務がある
「今回の事例のような場合は、錯誤として、売買契約は無効になるものと思われます」
北島弁護士はそう指摘します。まず、錯誤とはどういうものでしょうか。
「錯誤とは、伝統的見解によると『内心的効果意思と表示との不一致を、表意者自身が知らないこと』と小難しく定義されます。内心的効果意思とは、今回の事例でいえば、この絵画を購入しようという意志です。表示とは、この絵画を売ってくれという意思を表示することです」
ということは、相談者の男性は自ら絵画を購入しているので、錯誤は存在しないとなるのでしょうか。
「今回の事例のような場合は、『動機の錯誤』といって、もともと予定されていた典型的な錯誤のパターンとは異なる類型です。これは、意思と表示は一致しているものの、そもそもの動機で勘違いしている場合を指します。
しかし、このような錯誤が、我々の日常的な錯誤のパターンとして多いこと、それを錯誤から外してしまう合理的な理由もないことなどから、『動機の錯誤』も、錯誤の一部として考えられるようになっています。
ただし、動機の錯誤の場合は、動機の部分が取引上で相手方に表示されていることが必要です」
動機の部分の表示というと、どういうことを指すのでしょうか。
「今回の事例では、本物であることが売り主から確約されている点で、本物であるから買ったのでしょう。そのため、どんな動機で購入に至ったのかの『表示』はあると言えます。よって錯誤として契約の無効を主張できる場合であると思います。
もちろん、法律行為の要素でなければなりませんが、常識的に考えて絵画が本物か偽物かは重要なことですから、要素の錯誤と言え、本件は無効と言える場合と言えます」
購入した相談者はお金を返してもらえるのでしょうか。
「取引が無効とされた場合、買主は、絵画を返還し、売り主は代金を返還する義務があります。したがって、騙すつもりはなく、自分も本物だと思ったと売り主が言ったところで、返金する義務は生じます。考えてみれば、偽物を売って何百万円ももうけるのはおかしな話ですよね」