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見知らぬ女性にキスして逮捕「法律違反と思わなかった」←こんな言い訳は通用するのか
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見知らぬ女性にキスして逮捕「法律違反と思わなかった」←こんな言い訳は通用するのか

見知らぬ人に突然キスをしたとして、イタリア国籍の男性(40)が逮捕された。その男性が「あいさつのつもりだった、日本の法律に違反しているとは思わなかった」と供述したと報じられ、話題を呼んでいる。

報道によると、この男性は電車内で面識のない女性にキスをしたとして、和歌山県迷惑防止条例違反の疑いで3月上旬、和歌山県警に現行犯逮捕された。さらに、それ以前に、路上を歩いていた別の女性に抱き付いてキスをしていたことが分かったとして、強制わいせつ罪の容疑で再び逮捕された。

仮に、キスをした男性が、本当に法律違反だとは知らず、「まったく悪いことだと思っていなかった」としたら・・・。ルールを知らず、悪意もない人を、裁判で有罪にできるものなのだろうか。刑事事件にくわしい伊藤諭弁護士に聞いた。

●「法律を知らなかった」は通用しない?

「刑法38条3項は『法律を知らなかったとしても、そのことによって、罪を犯す意思がなかったとすることはできない』と規定しています」

伊藤弁護士は、こう切り出した。その条文はどういう意味なのだろうか?

「この条文をどのように解釈するかについては、専門家の間でも複数の考え方があります。有力なのは次のような見解です」

<法律の存在を知らず、『悪いこと(違法)』だと思っていなかったとしても、犯罪は成立する。ただし、悪いことだと考える『可能性』すらないような場合には、犯罪は成立しない>

具体的には、どんな場合なら無罪になるのだろうか?

「簡単にまとめると、単に本人が『悪いことだと知らなかった』というだけなら、有罪です。

無罪になるためには、『一般人にとって、その行為が悪いことだと考える可能性がなかった』という、何らかの特殊事情があったと認められる必要があります。これは、めったに認められないと考えてよいでしょう。

過去の事例では、百円紙幣を模したサービス券を配付した事件が参考になるでしょう。これは、サービス券を警察署に持参したところ、警察官から注意を受けるどころか同僚に配るなどしてくれたために安心して、さらに同様の券を配付したという事件なのですが、それでも有罪とされました」

●「悪いこと」と考える可能性はあった

では、今回のケースはどうか?

「この男性の場合、見ず知らずの女性の額にいきなりキスをしたり、路上で抱きついてキスをしたということです。

仮に条例や刑法のルールを知らなかったとしても、普通の人であれば、こうした行為をすれば、女性が嫌がったり迷惑に感じたりする可能性に思い至るでしょう。つまり『悪いこと』だと考える可能性は認められます。

イタリア人だとしても、こうした点は変わらないでしょうから、この男性の『日本の法律に違反しているとは思わなかった』という弁解は通らないでしょうね」

伊藤弁護士は、このように話していた。

(弁護士ドットコムニュース)

プロフィール

伊藤 諭
伊藤 諭(いとう さとし)弁護士 弁護士法人ASK川崎
1976年生。2002年、弁護士登録。神奈川県弁護士会所属。中小企業に関する法律相談、弁護士等の懲戒請求やトラブル対応などを手がける。第一法規「懲戒請求・紛議調停を申し立てられた際の弁護士実務と心得」著者。

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