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東大が「推薦入試」導入 不合格になったら「内申書を書いた教師」の責任を問えるか

東大が「推薦入試」導入 不合格になったら「内申書を書いた教師」の責任を問えるか

東大が2016年度から、大学入試の2次試験の後期日程を廃止し、推薦入試を導入すると発表した。多様な学生を集めたいとする狙いがあり、出願には、特定の学問分野への関心を証明する論文のほか、各高校の推薦状と調査書の提出が必要だ

各校からの推薦は1~2人で、面接を複数回実施し、大学入試センター試験で規定以上の成績を収めた受験生を合格とする。最難関大学で推薦入試が導入される結果、教師に評価の高い推薦状や内申書を書いてもらうことに、受験生やその親の関心が集まることが予想される。

では、東大の推薦入試を受験して不合格だった場合、教師に書いてもらった推薦状や内申書が悪かったのが原因だとして、その内容の開示を請求したり、損害賠償を請求できたりするのだろうか。湊信明弁護士に聞いた。

●推薦状と内申書の開示請求について

東大の推薦入試に受験して不合格だった場合、生徒の中には、高校の教師に書いてもらった推薦状や内申書の中身がどのようなものだったか気になる人もいるだろう。これらの開示を請求することはできるのだろうか。湊弁護士は、「国公立高校と私立高校に場合を分けて考える必要がある」と語る。

「国公立高校の場合、都道府県や市区町村の『情報公開条例』に基づいて、内申書や指導要録(の一部。以下『内申書等』という。)につき開示を請求する余地があります」

他方、私立高校の場合、上記『情報公開条例』を根拠として内申書等の開示を請求することはできないと考えられます。また、他に根拠となり得る確たる法律・条例がない限り、私立学校に対して内申書等の開示を請求することは困難と考えます」

つまり、生徒が国公立高校に通う場合は、推薦状や内申書の開示を請求できる可能性があるが、私立高校の場合は開示請求が難しいということだ。

●「不合格と、推薦状や内申書の内容との因果関係の証明は難しい」

では、なんとかして、推薦状や内申書が開示されたとして、その中身をみると、誤った内容だったり、あまりにもひどいものだった場合はどうだろうか。受験に落ちたのは、推薦状や内申書が悪かったとして、教師に対して損害賠償を求めることはできるのだろうか。

「内申書等の内容が、教員の生徒に対する評価権限を著しく逸脱・濫用したと認められるときは、これを違法と見る余地はあるでしょう。ですが、そもそも、『著しい逸脱・濫用』が認められることの立証には困難が伴うでしょう。

また、損害賠償請求が認められるためには、不合格という結果と、内申書等の誤りとの間に因果関係が存在することを立証しなければなりません。ですが、受験生が不合格となった原因としては、内申書等以外にも、大学側独自の判断が考えられる以上、因果関係の立証にはかなりの困難が伴うものと考えられます。

なお、私立高校の場合、そもそも内申書等の開示を受けること自体が困難であるため、こうした立証は極めて困難であると考えられます」

東大の推薦入試に対しては、「学力低下」を心配する声もあるが、受験科目を重視した入試も残り、これまでと違う人材にもチャンスが広がる。さらに、京大でも2016年度入試から書類審査を重視した「特色入試」が実施されると発表された。生徒たちには細かいことは気にせずに、日々の勉強に励んでもらいたい。

(弁護士ドットコムニュース)

プロフィール

湊 信明
湊 信明(みなと のぶあき)弁護士 湊総合法律事務所
東京弁護士会。企業法務を中心として、交通事故や親族相続問題まで幅広く案件を扱っている。著書に『医療紛争の法律相談』(青林書院)、『遺言書作成・遺言執行実行マニュアル』(新日本法規出版)など多数。

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