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理系出身の企業法務弁護士が挑んだ「人質司法」と「冤罪」 大川原化工機事件、高田剛弁護士
高田剛弁護士

理系出身の企業法務弁護士が挑んだ「人質司法」と「冤罪」 大川原化工機事件、高田剛弁護士

大川原化工機事件は、外為法違反の疑いで逮捕された経営者らが起訴取り消しとなった異例の冤罪事件として注目を集めた。弁護人として無実を証明し、5年をかけて国家賠償請求訴訟では経産省の通達の誤りまで認めさせた高田剛氏(BUSINESS LAWYERS AWARD 2025グランプリ/注目裁判部門賞/主催:弁護士ドットコム)に、事実を追求し続けた信念と弁護士としての原点を聞いた。

●慣れない刑事事件 ヤメ検のバンド仲間を頼る

高田剛氏は病に伏した高校時代、ベッドで読んだ「ブラックジャック」にあこがれた。偏屈だけど腕利きの医師。権力におもねらず、自分の価値観で判断し、人に寄り添う。薬学から法学に鞍替えしたのは、解が一つの自然科学より、自身の裁量や解釈で調整される社会科学の“余白”に惹かれたからだ。しかし、大川原事件はその法の曖昧さが恣意的に使われ、冤罪を生んだ。「徹底して事実を追求し、行間を埋めるのが弁護士の仕事」。魂を込めた5年間、信じたのは「これは無実だ」という自身の感触だった。

大川原化工機とは10年以上前に金融関連の案件を担当したことがきっかけで、顧問契約を結んでいた。家宅捜索があった2017年10月、社長から連絡がきて衝撃を受ける。「優秀な会社で、たまに契約書レビューをする程度で十分だった。まして逮捕されるなんて思ってもいなかった」。税務訴訟に強い鳥飼総合法律事務所からキャリアをスタートさせた高田氏は、会社法・金融商品取引分野を中心に活動する「ザ・企業法務弁護士」。刑事事件は数えるほどしか担当していなかった。

2020年3月、大川原正明社長ら3人は外為法違反の疑いで逮捕され、大々的に報道された。高田氏が元検事の市川寛弁護士に連絡すると「自白を取りに来ている。おれが検事なら必ず割る、そういう世界だ」と言われた。かつて無理な取り調べをしたと告白している市川氏は、昔からの音楽仲間。送検、再逮捕…限られた期間に目まぐるしく動く刑事事件のプロセスで、検事目線での助言を仰いだ。高田氏は「刑事と民事の常識は全然違う。刑事をやっていない弁護士のゆるい感覚では対処できなかったかもしれない」と振り返る。

高田氏は、黙秘が鉄則だと3人を鼓舞し続けながら、外為法の容疑について調べた。機械メーカーの複雑な事案とはいえ、理系出身のため苦手意識はなかった。1カ月後には無実だと確信した。あとは証明するだけだった。入念な証拠集めの結果、公判前に異例の起訴取り消しとなったものの、11カ月の勾留が続いた。3人のうち1人は病に倒れ、亡くなった。

「ただ、保釈されなかったことだけが本当に苦しかった」。国家賠償請求訴訟で会社の名誉回復を図るとともに、人質司法の問題も世に訴えかけることを決意した。

画像タイトル 大川原事件について語る高田剛弁護士(2025年12月/東京都内/弁護士ドットコム撮影

●反対の多かった見立て 事実追求を徹底する

もともと高田氏の見立ては、2つの柱で成り立っていた。捜査当局が軍事転用可能だとしていた機能は、同社の噴霧器の構造上持ち合わせていないこと。そして、違反の根拠とされていた経済産業省の通達自体に誤りがあること。

特にこだわったのは後者だ。「事件の本質は、法律で規制もされていないのに公安部が独自の解釈で捜査を強行したこと。そこを論点化しなければ意味がない」。国家賠償請求訴訟の2審で認められ、省令・通達を国際基準に沿った内容に改正させるところまでつながった。

当初、この通達を疑う考えを示したとき、弁護団の若手からは「省庁がそう言ってるんだから仕方ないじゃないですか。世界とか関係ないですよ」と反論された。しかし、税務訴訟に通じた高田氏には「通達は行政が内部的な定義で作ったものにすぎず、絶対ではない」といえる経験があった。

この通達には大元となる国際的な枠組み合意があり、日本だけ独自の規制をするはずがないと説得した。国際輸出管理レジームである枠組み合意(オーストラリア・グループ)は非公開のため、参加する43カ国の法律を調べた。法律の成り立ちを深く広く見て、国際レジームに整合するのかを突き詰めた。

「弁護士は、事実が何なのかを見極める仕事だと思うんです。複雑な事実を読み解いて整理する。事実と向き合い、意見を形成する。そうでなければ価値がない」。これこそが刑事、民事問わず求められている専門性ではないかと指摘する。

画像タイトル 国家賠償請求訴訟の東京高裁判決を受け、会見する(左から)高田剛弁護士、大川原正明社長ら(2025年6月11日/東京・霞が関の司法記者クラブ/弁護士ドットコム撮影)

●「この人のために」を貫き、偉業成し遂げる

「弁護士になって、本当によかった」。表彰式のスピーチで、かみしめるように語った高田氏。会場の後方には、スポットライトを見つめる大川原社長がいた。息子の晴れ舞台を見る父親のように、スマートフォンを高く掲げて写真を撮っていた。ここまで他人の人生にどっぷり関わり、信頼関係をつくれる職業は弁護士のほかにないかもしれない。

高校生の時の入院がきっかけで薬学部に入ったが、大学院に進学する前の春休みに出来心で法学をかじったことが転機となった。進むべき道が決まっていることに窮屈さを感じ、予備校の基礎講座に通ってみた。弁護士と検察官の違いも知らなかった理系青年は、民法に一番はまった。解釈によって私的な利益を調整するのが心地よかったといい、「絶対的な解答ではなく、自分で解をつくる面白さ」にのめり込み、2年休学して弁護士になった。

そして、歴史に残る大事件に挑んだのは弁護士人生20年ほどのころ。「自分にとってもチャレンジング。無罪判決なんて取ったことない。刑事に強いから話がきたわけではなく、社長との昔からのつながりで依頼された。その期待に応えたかった」。

法学部出身ではない自分には、そもそもブランドや人脈がなかったと語る高田氏。縁あって出会った人のために、魂を込めた仕事をしたい。教えを請うてきた先輩、刺激を与えてくれた同僚、支えてくれた弁護団の仲間、人生を後押ししてくれた家族。彼らがいて、今の自分がある。「心の中から共鳴できる、この人を助けたい。そういうのが好きなんですよね」。“ブラックジャック”を突き動かすものは、純粋な思いだけだ。

【プロフィール】
たかだ・つよし 東京大学薬学部卒。2000年に弁護士登録。2016年に和田倉門法律事務所を設立。コーポレートガバナンス、会社訴訟、不正調査、税務争訟などを主に手掛ける。複数の上場企業で社外役員を歴任。大川原化工機冤罪事件では刑事事件の弁護人、国賠訴訟の会社側代理人を務め、捜査機関の問題を追及。「人質司法」問題にも切り込み、自身のSNSやメディア等を通じて積極的に発信している。

この記事は、公開日時点の情報や法律に基づいています。

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