元フジテレビ女性社員と中居正広氏とのトラブルをめぐる問題を受けて、在京・在阪のテレビ局に対して実施されたアンケート調査が5月29日、公表された。
調査に回答したテレビ局は「人権方針」を策定している一方で、NHKは人権方針に国際人権基準を明記していないなど、他局に比べ進んでいない現状が浮き彫りになった。
調査を実施したNPO法人「ヒューマンライツ・ナウ」(HRN)の副理事長をつとめる伊藤和子弁護士はこの日の記者会見で、NHKについて「非常に立ち遅れている」と批判した。
●読売テレビと関西テレビは回答辞退
このアンケート調査は今年2月から3月までの期間に実施。
質問票は、東京および大阪に本社を置くテレビ局▽NHK▽日本テレビ▽TBS▽毎日放送▽フジテレビ▽テレビ朝日▽朝日放送テレビ▽読売テレビ▽関西テレビ▽テレビ東京──の10局に送付された。
このうち、読売テレビと関西テレビは回答を辞退した。また、テレビ東京は回答があったものの期限後だったため、結果に含まれていない。
パワハラや強制労働など、人権リスクについて把握して適切な対処を実行する人権デューディリジェンス(人権DD)について、回答したテレビ局で唯一、NHKは「おこなっていない」と答えた。
また、人権方針策定後に研修以外の具体的な取り組みがあるかについても唯一、NHKは「ない」と回答した。これらの結果について、伊藤弁護士は「非常に立ち遅れている」と厳しく評価した。
そのうえで、NHKに対して、国連の「ビジネスと人権指導原則」に即した人権方針の策定や人権DDを実施すること、人権侵害を受けた人が苦情を申し立てたり、救済を求めたりするための仕組みづくりを求めた。
●「旧ジャニーズ問題から十分に学んでいない」
一方で、民放各局においても、人権方針の方針の実施体制やプロセス、取締役会の責任を明記しているのは、日本テレビとテレビ朝日の2社にとどまっている。
伊藤弁護士は「人権問題に対する取り組みが極めて不十分だ。旧ジャニーズ問題から十分に学んでいないのではないかと非常に大きな懸念を持った」と危機感を示した。
さらに「システムについて形式的には整いつつあるが、実質はこれからだという状況。絵に描いた餅にしないことが重要」と釘を刺した。
●「事前に契約書を締結し、報酬を明示して」
出演者との契約実態については「契約を書面でおこなわない」ことを明確に禁止しているのは、フジテレビだけだった。
この結果について、一般社団法人「日本芸能従事者協会」の森崎めぐみ代表理事は「非常に遺憾に思う。契約書がないことでどれだけ困っているかというのを認識してほしい」と苦言を呈した。
そのうえで、出演者との間で契約書を書面で交わさない慣行を撤廃し、事前に契約書を書面で締結して、報酬を明示することを求めた。
●「自分たちは特別なんだという意識が強い」
テレビ局だけでなく、メディア業界における人権意識の高まりが鈍い理由について、ジャーナリストの浜田敬子氏は「自分たちは特別なんだという意識が強い」と分析する。
さらに浜田氏は「グローバルに仕事をしていると、人権意識の高い海外サプライチェーンやバリューチェーンから指摘されることが多い。テレビ局の場合は、国内市場だけをターゲットにしているため、グローバルなチェックがしにくい」と指摘した。