5月の大型連休、各地は国内外からの観光客で賑わっています。日本国内では、2024年に来日した外国人の人数は3686万9900人と過去最高となりました。
しかし一方で、「観光客のマナーが悪く、ゴミをポイ捨てされる」「混雑していて電車やバスに乗れない」といった地域の住民たちからの悲鳴も聞こえてきます。
こうした状態をオーバーツーリズムといいます。国連世界観光機関(UNWTO)は「観光地やその観光地に暮らす住民の生活の質、または観光客の体験の質に対して、観光が過度に与えるネガティブな影響」と説明しています。
オーバーツーリズムの問題が深刻化する中、観光地をかかえる自治体では、近年、さまざまな条例を設置して対策にあたっています。条例設置の背景には、観光客増加による自治体側の財政負担が増えていることもあるようです。その一例を紹介してみましょう。
●人気アニメの聖地、ハロウィーンで混雑や迷惑行為
【神奈川県鎌倉市】
「公共の場所におけるマナーの向上に関する条例」が2019年から施行されています。もともと観光客が多い鎌倉市ですが、人気アニメで描かれてファンが殺到するなど、住民からの苦情が寄せられていました。
そこで、鎌倉市ではマナー向上を求める条例が施行され、混雑する街中での食べ歩きや、危険な場所での撮影などを「迷惑行為」として自粛を呼びかけています。
【東京都渋谷区・新宿区】
渋谷区はハロウィーンの期間中、渋谷駅周辺の混雑や騒音問題の緩和を目的に、2019年から「渋谷駅周辺地域における安全で安心な環境の確保に関する条例」を施行しています。ハロウィーン期間中の路上飲酒禁止を規定しています(2024年からは通年禁止に改正)。
新宿区でも同様に「新宿駅周辺地域の安全で秩序ある環境の確保に関する条例」を2024年から施行しています。ハロウイーン期間は新宿駅周辺で、路上飲酒のほか、街路灯や建物にのぼる行為などが禁止されています。
●北海道や沖縄、観光予算やインフラ整備の財源が課題
【北海道美瑛町】
豊かな自然を観光資源としてきた美瑛町ですが、近年は観光客による畑や私有地などへの侵入や、交通渋滞などが起きています。そこで、2023年4月、「美瑛町持続可能な観光目的地実現条例」を施行しました。
この条例では、景観や生活環境の保全に支障をきたす恐れのある迷惑行為などを禁止しています。また、持続可能な観光地を目標に掲げ、観光予算にあてる財源確保に努めることも求められています。そこで、美瑛町では、観光名所「青い池」の駐車場の入場料への課税を可能にする条例制定を目指しているとのことです。
北海道美瑛町の「青い池」(夏風 / PIXTA)
【沖縄県竹富町】
竹富町は9つの有人島と7つの無人島からなり、美しい島の風景を求め、多くの人が訪れる人気の観光地です。西表島は、イリオモテヤマネコが生息しており、2021年には世界遺産登録がされています。
そこで、「竹富町エコツーリズム推進法の施行等に関する条例」や「竹富町観光案内人条例」を2023年11月から施行し、立入りの制限などをおこない、自然環境を守っています。
一方で、インフラ整備や観光客によるゴミの持ち込みなどへの対応により、町の財政負担が増えていることから、島を訪れた人から徴収する「訪問税」の導入も検討されているとのことです。
●富士山のオーバーツーリズムどう防ぐ?
【山梨県と静岡県】
山梨県と静岡県の県境にそびえる最高峰、富士山は国内外から多くの観光客や登山客が訪れます。富士山は2013年に世界遺産登録されており、自然環境への影響が懸念されてきました。近年では、無謀な登山や混雑が問題となり、山梨県と静岡県では条例を制定して対策にあたっています。
山梨県は2024年3月、「山梨県富士山における登山の適正化に関する条例」および、「山梨県富士山吉田口県有登下山道設置及び管理条例」を制定しました。これにより、1日あたりの登山者数の上限設定などの措置を実施しています。
静岡県も、今年3月に「静岡県富士登山条例」を制定、5月9日から入山の事前登録などを義務付けています。
富士山登山する人々(taboku / PIXTA)