弁護士ドットコム ニュース
  1. 弁護士ドットコム
  2. 民事・その他
  3. 困っていても 「助けてが言えない」…”相談待ってます”の行政に伝えたいこと 女性支援の現場から
困っていても 「助けてが言えない」…”相談待ってます”の行政に伝えたいこと 女性支援の現場から
「わたカフェ」セレモニー(筆者撮影)

困っていても 「助けてが言えない」…”相談待ってます”の行政に伝えたいこと 女性支援の現場から

貧困、DV、性被害など、近年の女性をめぐる複雑化した諸問題に対応すべく、2024年4月より施行された「女性支援新法」。法改正のポイントのひとつに「行政と民間団体の協働」を掲げ、一律化した支援から脱却し、本人の希望に合わせたきめ細かい支援の実現を目指している。

法改正から1年を迎える今年、2025年1月15日に東京・豊島区の池袋で若年女性に居場所を提供する女の子の居場所カフェ「わたカフェ」が、移転オープンを記念してセレモニーを開催。ゲストに、都内で女性支援活動に力を入れている、豊島区すずらんスマイルプロジェクト事務局・清水美希氏、世田谷区議会議員・おのみずき氏を招き、各自の取り組みや今度の課題について意見を交わした。

会場には、自治体関係者、民間支援団体職員、関係企業など約100名近い女性支援に関わる関係者も駆けつけ、さまざまな声が寄せられた。女性支援の現場で、今まさに起きていることを追った。(取材・文:遠山怜)

●若年女性のSOS、全国から

東京・豊島区池袋の「わたカフェ」は、15歳から24歳までの若年女性を対象に、居場所や専門職による相談の場を提供している。運営母体である国際NGOプラン・インターナショナルは、世界80カ国以上で誰もが平等な世界の実現に向け様々な取り組みを実施しており、「わたカフェ」では国内の女の子支援を行っている。

国内支援事業のグループリーダーを務め、同施設の相談員でもある福田愛氏はこう語る。

画像タイトル 国内支援事業のグループリーダー、「わたカフェ」相談員の福田愛氏

「わたカフェには、首都圏在住の女の子のほか、全国各地から利用者が来訪します。関東圏のみならず遠方から、ここに来るためだけに上京する子もいますね。大学進学時など、生活環境が大きく変わる18、19歳くらいで初回利用する方が多いです」

本人確認を済ませた利用者は、わたカフェ開設時間内であれば自由に施設を使うことができる。スマホを充電したり、相談員とのおしゃべりを楽しむなど、思い思いの時間を過ごす。常駐している相談員はすべて女性で、希望すれば併設の相談室で、ソーシャルワーカー、心理士、助産師などの専門スタッフに相談することもできる。

主な利用者層はというと、意外にも家庭環境の共通点は見られないという。

「利用者のいる生活環境はさまざまです。困窮した家庭の子もいれば、経済的には豊かでも家族不和を抱えている家庭の子もいます。共通しているのは、自己効力感が低いことです」

自己効力感とは、自分が特定の状況で目標を達成できると確信できる状態を指す。近年、心理学の分野では、自分の能力への自信が、学業や仕事への取り組み、セルフケアへの関心度に大きく影響していることが指摘され、注目を集めている。

●約6割が「自分は社会の役に立たない」と回答

わたカフェが独自に行ったアンケートによると、「自分が社会の役に立てると思うか」の設問に対し、利用者の約2割が「役立たない」と回答。「あまり役立たない」と合わせて、全体のうち約6割が、自分の能力に自信がないことが判明した。

その理由として、福田氏は信頼できる大人が周りにいないという問題点を指摘する。

「自己効力感が低い子は、周囲に相談できる大人がいないと感じています。サポート資源が乏しく、本音を打ち明けられる相手がいないため、自分の考えが正しいのか自信が持てない。そうした事情もあり、安心して過ごせる居場所や、信頼できる大人が切に求められてるのではないでしょうか」

相談員が全員女性であることも、利用者にとって安心できるポイントだ。過去、痴漢などの性被害の相談をした際に、相手の男性から二次被害を受けた経験のある利用者は少なくないからだ。

「これを言ってもいいのか」と、疑心暗鬼に陥らなくて済むメリットは大きい。

●「助けて」が言えない

福田氏は、相談所として機能するために心掛けていることがあるという。

「なるべく『支援臭』を出さないようにしています。『支援臭』というのは、「これに困ってます」「こうしたいです」という当人の明確な訴えを元に対応する、行政が一般的に行っている支援の仕方を指します。こうした本人の積極的なアクションを前提とした相談所は、なかなか利用に繋がりません」

「なぜなら、利用者の子はずっと誰かに相談する機会がなく、悩みを打ち明けること自体に高いハードルを感じているからです。また、誰かに相談して嫌な思いをした経験があるため、悩みがあってもそう簡単には誰かに問題を打ち明けたりしません。

『この人は信用できる大人か』、慎重に推し測っているのです。未成年者の場合は、『親に勝手に連絡して大事になるのでは』という警戒心もある。相談の前に、まずは利用者と信頼関係を構築していく必要があります」

福田さんが相談員として在籍している際は、利用者との何気ないやりとりを大事にしている。

「本棚の本を手に取っている子がいたら、『〇〇に興味あるの?』と話しかけたり。たわいない会話の中にも、その子がいる状況のヒントが隠れている。そのわずかなサインを見逃さないようにしています」

「『よかったら、イベントにきてみない?』『それについてもっと話したいんだけど、個室で話さない?』と、自然な会話のなかで提供している支援につなげています。相手の状況を察知して、こちらから話しやすい環境を整える。

利用者の中には、深刻な暴力被害にあっていても、自分からは言い出せない子もいます。『何か悩みはある?』と聞いても、ないと答えられてしまう。支援体制を用意するだけではなく、そこにつなげる人がいないと彼女たちが抱えている問題は表面化してこない」

豊島区の男女平等推進センターで、女性支援に携わる清水美希氏もこれに賛同する。

「困った時に行政を頼ろうと思う人はまずいない。『困ったら相談を』というメッセージも、そのままでは届かない。うちのセンターでは、相談案内カードを可愛いデザインにして、相談はともかく、思わず手に取りたくなるように工夫しています。相手が行政を信用していない前提に立って、アプローチ方法を考えなくては」

●「女性支援、要りますか?」

こうした配慮に奮闘する支援者がいる一方、行政側から疑問の声を呈されたことも。ジェンダー平等に取り組む世田谷区議会議員・おのみずき氏はこう指摘する。

「行政の職員が、女性支援新法を知らないこともある。『多様性の時代に、なぜわざわざ女性支援を?これ、今さら要りますか?』と聞かれたことも。行政側が、現場で起きていることを知らない状況を変えていかなくては」

「行政が民間と協働しようとする場合、助成金を設けて公募の中から選ばれた民間団体に委託することをイメージする。でも、本当に必要なのは行政と民間、お互いが顔を付き合わせて、今必要とされていることを肌身で共有し合うことではないでしょうか」

行政による支援は、土日や夜間帯の稼働が難しい。一方で、民間団体は開設時間の規定はないものの、各団体の規模が小さくリソースに限りがある。お互いが持っている機能をどう補い合えるかが鍵を握る。

画像タイトル 場には、当事者目線でアドバイスを行ったプランインターナショナルユースチームのメンバーも

●「困難をかかえる女性」はどこにでもいる

女性支援新法は「困難をかかえる女性」を対象としている。一方、当事者からは「自分が使ってもいいのか迷う」という声が寄せられた。悩みを一人で抱え込むことが習慣になっているため、困っていてもSOSを出せない。

「自覚のない」当事者をどう支援につなげるのかが、今後の課題だ。

福田氏は、最後にこう語る。

「困難をかかえる女性がどこかにいるわけではなく、誰しもがいつでもそうなりうるのだと思います。法律ができただけでは十分ではない。まずは今起きていることを知って、支援に関わる人を増やしていくことが大切です。そうすることで、自分も困った時に『助けて』と言える、みんなが生きやすい社会になるはずです」

この記事は、公開日時点の情報や法律に基づいています。

オススメ記事

編集部からのお知らせ

現在、編集部では協力ライターと情報提供を募集しています。詳しくは下記リンクをご確認ください。

協力ライター募集詳細 情報提供はこちら

この記事をシェアする