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タレント「中居正広」はテレビマンにとって「特異で便利な存在だった」 テレビ局が"依存しすぎた"背景をときほぐす
中居正広さんの事務所「のんびりなかい」の公式サイトから

タレント「中居正広」はテレビマンにとって「特異で便利な存在だった」 テレビ局が"依存しすぎた"背景をときほぐす

タレントの中居正広さんが芸能界引退を表明した。女性とのトラブルを報じられていた中居さんをめぐっては、フジテレビの責任やガバナンスのあり方も強く問題視されて、調査が進められることになっている。

「中居正広」というタレントは、テレビ局において「特別で特異な存在」だった。女性との問題を起こすに至るまで、テレビは中居さんを持ち上げて、依存していなかったか。背景にはテレビマンがテレビ局で出世するための構造も関係していたと言える。

「人気者の人気に頼り切った番組作り」はもうやめにしないか。(テレビプロデューサー・鎮目博道)

●「中居正広」はテレビにとって特別で特異な存在

中居正広さんが引退を表明した。正直「少し早いな」と感じた。1月9日には「今後の芸能活動についても支障なく続けられることになりました」とコメントしていたのに、そこからわずか2週間で引退に追い込まれたのは、本人にとって不本意な展開だろう。

中居さんもフジテレビも一貫して対応を間違えてきたような気がする。

コメントや会見のたびに状況が悪くなっていった。そこから感じたのは、中居さんもフジテレビも「世間一般の常識や感覚と乖離する世界にいた」ということだ。

フジは「古き良き時代の王者・フジテレビの幻影」に酔い続けた結果、世間と乖離したのだろう。中居さんはフジをはじめとしたテレビ局や「強大な権力を持つ事務所」に守られて世間と乖離したのだろう。

もっと直接的に言えば、ジャニーズ事務所に守られ、周囲のテレビマンから特別扱いされたことが、中居さんの目を曇らせてしまったのではないか。

テレビ局にとって「タレント・中居正広」とはどんな存在だったのか。今回の問題の背景として考えたい。

そして、これはもう「特別で特異な存在だった」としか言いようがないだろう。

かつてSMAPは本当に特別な存在だった。出る番組は確実に高視聴率が約束されていた。

数字を持つ特別な存在ではなくなったあとも、ジャニーズ事務所(現STARTO ENTERTAINMENT)のタレント起用において、他局より優位に立とうとするテレビ局にとって、中居さんはこの上なく"便利な存在"だったはずだ。

●守備範囲が広く、ジャニーズとの関係構築にも「便利」だった

"便利"と表現したのは、ジャニーズとの関係を良好に保つには、大御所に常に自局に出演してもらっておくのが最良の方法で、最も適しているのが中居さんと言えるからだ。

ジャニーズの最上位クラスで、バラエティ番組をMCとして回せる人は中居さんくらいだ。

最近はドラマ出演がメインの木村拓哉さんは、どうしても準備期間がそれなりにかかるので、ずっとテレビに出続ける状態は期待できない。

それに比べて中居さんは、バラエティのレギュラー番組枠をおさえておけば、年間を通してずっと出演してくれる。芸人とも互角に渡り合えるし、野球好きで有名なようにスポーツにも詳しい。

バラエティからスポーツ番組、そしてニュース番組まで、守備範囲が非常に広いのだ。特番にもキャスティングできるし、大イベント系のメインまで張ることができる。

どのような角度でも起用できて、どのような相手とも渡り合える。中居さんに任せておけば番組は問題なく進行する。そしてジャニーズとも関係を築き続けられる。これはテレビマンにとって"便利"なこと間違いない。

●中居さんと一緒に大きくなった「イエスマン」がテレビ局の要職に

そしてもう一つ。中居さんが各局で活躍できた大きな背景は、一緒に育ってきたテレビマンが局のトップや要職に就いていることもある。

バラエティなどは特にそうだが、テレビマンは出演者と一緒に育ち、功績を上げることで立場も上げていく。

中居さんたちと一緒に育った世代のテレビマンたちの天下がちょうど今なのだ。仲間意識は強く、持ちつ持たれつの「腐れ縁」のようなものは断ちがたい。

そのような理由で中居さんは、各局に「ジャニーズタレント」として出演し続けた。

個人事務所になってからも出演が続いたのは、「MC」の能力と「人間関係」が大きかったと言えよう。

そのような中で、この問題が明るみになって、引退した。中居さんはどこでボタンを掛け違えてしまったのかと考えると、世間とテレビ業界の現状を読み間違えてしまったということではないか。

大物タレントは、お気に入りのスタッフ以外の人間と接する機会が少なくなり、世間やテレビ業界全体の空気や温度感に触れられなくなる。

「イエスマン」と化したフジテレビなどの「いつものスタッフ」としか会話しなくなり、何をすべきか、そして何をしてはいけないのかが、わからなくなってしまったのではないか。

中居さんだけでなく、フジテレビも極めて狭い世界の力学に従い、現在の世間が見えなくなってしまっていたのではないか。

「示談をすれば」「コメントを出せば」「会見をすれば」許されると思った思惑が、すべて物の見事に外れてしまったのではないかと私は思っている。

●引退表明は動画でも良かったのではないだろうか

中居さんがファンクラブに出した最後のメッセージで、ファンに会わなかったことや会えなくなってしまったことへの後悔を切々と綴っていたのが印象深かった。

引退した今となっては、新撮のテレビ番組に二度と出演できないのはもちろん、イベントやコンサートをする機会もないだろう。

何より、過去の出演作が再放送される際にも、真相解明にほど遠い今のままの状況で表舞台を去ったからには、出演シーンはカットされる可能性が高いのではないかと思う。

中居さんの活躍はドラマ、バラエティ、スポーツ、報道、多岐に渡る。テレビの歴史の一部分を作ったことは間違いなく、そうした「歴史的資料」が埋もれるとすれば残念だ。

記者会見が難しいとしても、引退表明は動画でも良かったのではないだろうか。ファンなどに謝罪する姿を見せて、自分の口からできる限りの説明をしてもよかったかもしれない。

●フジだけではない「中居さんと一緒に育ったテレビマン」に告ぐ

ここまで中居さんとフジテレビが「間違った」背景について語ってきた。

だが、テレビのあり方も問われている。いくつもの方向性で変わらなければならない時期が来ている。

「人気者のバリューに頼りきった番組づくり」も、そろそろ考え直したほうがいい。

「女性向けの番組でも男性上司が口を出す」みたいな「インチキジェンダー意識」も改めなければならない。「出演者やスタッフの人権」も真剣に守ってほしい。

そして、中居さんと大きくなった世代のテレビマンたちは、自らの身を顧みるべきだ。意識を改められなければ、そろそろ身を引いたほうがいい時期に来ていると思う。

「大スター中居正広」が最後にテレビ業界にくれたものは「テレビが大きく変わるきっかけ」だったと考えるべきではないかと私には思える。

この記事は、公開日時点の情報や法律に基づいています。

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