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冨山和彦氏、法曹志願者低迷に危機感「人材獲得競争は熾烈。リスクとリターンが合わないと、若者はこない」
冨山和彦氏(2023年11月27日/弁護士ドットコム撮影)

冨山和彦氏、法曹志願者低迷に危機感「人材獲得競争は熾烈。リスクとリターンが合わないと、若者はこない」

文系最難関の試験とうたわれてきた「司法試験」。死にものぐるいで勉強しても合格が難しい「狭き門」で、突破した人は「法曹」という資格だけでなく、社会的なステータスも得ていた。

一方で、司法制度改革の目玉だったロースクール開校から20年を迎える中、一時的に多様な人材があつまったものの、司法試験の受験者数は低迷している。

また、東京大学法学部の学生の中では、就職先として、外資系金融やコンサルを選択する傾向が高まっているとも言われている。はたして、職業としての「弁護士」は魅力がなくなったのだろうか。

11月27日に都内で開かれたシンポジウムで、ビジネス界で著名な冨山和彦氏が登壇した。在学中に旧司法試験に合格したこともあり、法曹への関心が高い。

冨山氏は「司法試験で(法曹の)質を担保することはナンセンスだ」として、現行制度の改革を説いた。

●「コストとリスクに対してリターンが合わない」

この日のシンポジウム「今、社会が求める弁護士の質と量を問う」(主催:ロースクールと法曹の未来を創る会)の後半パネルディスカッションには、冨山氏のほか、東大名誉教授の内田貴氏、住友化学・常務執行役員の大野顕司氏が登壇した。

かねてより法曹人口(=弁護士人口)をどれくらいの数にすべきかというテーマで、増員派と減員派の間で激論が繰り広げられてきたが、日本社会の発展にとっての「最適解」はいまだに模索されている途中だ。

冨山氏は「法曹人口を増やすべき」と持論を展開したうえで、志望者数が低迷する理由について「コストとリスクに対してリターンが合わないから」と指摘した。

「(弁護士の仕事を)魅力的にしようと思ったら、たぶん2つに1つなんです。(司法試験の合格者数をかつてのように)450人に戻して、『受かったら飯が食える』という世界、要するに『中世』に戻すか。

あるいは受験者のうち、短答式に受かるぐらいの資質があるなら(合格率を)7割〜8割を超えるようにするか。そしたら絶対(受験者数も)増えますよ。それで(合格者を増やすので)いいじゃないですか」(冨山氏)

●「極めて激しい人材獲得競争が起きている」

これからの日本社会は、このままいけば少子高齢化によって、多くの業界で「人手不足」が懸念されている。

「仮に岸田内閣の(異次元の)子育て政策が、奇跡的に功を奏しても、30年間効果が出ないです。とにかくすごい人手不足なんです。だからそういう意味で言えば、仕事なんていくらでもあります。

地方に仕事がないなんて、嘘です。地方でバス会社を経営しているからわかるんですが、もう全然人がいないんですよ。バス会社の経営課題のナンバーワンはバス運転手の確保です。

運転手を確保したバス会社が成長します。(バスの運転手の給料が)どんどん上がってきます。(今後は)バスの運転手のほうが弁護士よりいいかもしれない。だって、需給で決まるんだから。

そうなると、ますます(弁護士の)魅力がなくなるんで、本当に危機感を持つべきだと思います。リスクとリターンが合わなかったら、若い子たちは(法曹を)選択しません」

こうした状況の中で、いわゆる"優秀層"からも弁護士という職業を選ばない状況がはじまっているという。

「今、東京大学の卒業生のファーストチョイスは、スタートアップです。セカンドチョイスは、とりあえずモラトリアムでコンサルティング会社ですよ。その次くらいに大企業に行くというパターンがあります。

極めて激しい人材獲得競争の中で、どうやったら法曹が人を惹きつけられるかというテーマ」「もっと短時間で、少ないコストとリスクで受かるようにしないと(優秀な人材は)こない」(冨山氏)

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●「早く試験をパスさせる制度設計が望ましい」

司法試験に合格するまでにコストや時間がかかり過ぎるという点については、住友化学・常務執行役員の大野氏も同じ考えだ。

「これだけ人手が足りない中で、若い20代が(司法試験の勉強に)非常に貴重な時間を使っています」「これからの時代、早く失敗させるということがとても大切です」

実際に仕事をする中で、苦労して弁護士の資格を取ったけれども、法曹に向いていないという人も少なくないと指摘する。

早めに見切りをつけて、新しい領域にすすむためにも、コストや時間をかけさせないことが重要だと大野氏は強調する。

「早く(社会に)送り出して、早く失敗させて、そしてまた違う道を選んでいただく。これは実は法曹だけではなくて、他のキャリアでもまったく同じ話だと思います。

逆に、エンジニアから弁護士になる人ももっと増えてほしい。そういう意味で、とにかく制度設計としても早く(試験に)パスさせて、その次で勝負する形にしていくべきだろうと思います」(大野氏)

ビジネスのあらゆる局面でリーガルリテラシーを持っている人が関わる必要があると熱弁する冨山氏も、大野氏の言葉を受けて「極めて優秀なプログラマーは、司法試験に簡単に受かるので、そういう人に(法曹に)来てもらいたいですが、今だと、ちょっと来る気にならないでしょうね」と述べていた。

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